【今日は何をしようかな?(指導員のひとりごと)】①
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中水 香理(なかみず かおり)
私は、2か月に一度、緊張しながら…楽しみにしながら…待っている人物がいます。
「ああぁ、おはよう!」
いつもニコニコしながら、教室の入り口に大柄のおひげのおじ様が、大きな荷物とともに登場されます。
発達支援研究所 所長の山本先生です。
研修は勉強になるのですが、日頃の疲れと緊張が、緩やかな口調に誘う如く…異世界に行ってしまうことも多々あります。(先生、ごめんなさい!)「中水さん、ちょっと原稿書いてよ。」
「ええええええぇ!私がですか?」
笑うしかありませんでした。まじかぁ…⤵という気持ちの後ろに、面白そうだという感情の芽が出ようとしていることに気づきました。何を書こうか…な?
私の立場は「指導員」です。
現場で療育を必要とする利用者(1歳半~18歳)に指導を行うことが、仕事です。
専門用語になるのかわかりませんが、指導を行う時間を「支援」と言っています。
支援を行うときに、必要不可欠な道具たちがたくさんあります。
私の勤める校舎の壁面には、春には桜が満開を迎えたり、秋には可愛らしいもみじが飛んでいたりしています。
「手(て)」
とても大切にしているからだの部位であり、道具にもなる万能な手。
ふれる、ひらく、にぎる、つまむ、はじく、たたく、はらう、あおぐ…
かぞえることもできる万能な手。
肢体不自由の方であれば、足や顔の部位などが代わりをしてくれます。普通に生活していると、とてもありがたい存在であることを忘れてしまいます。
しかし、教室に通ってくる利用者である子どもの中には、とても厄介なものになってしまう場合があります。「感覚過敏」。手に関しては「触覚過敏」、触れるものに過剰に反応してしまうのです。また「感覚鈍麻」という感じにくい、反応が鈍感になってしまう場合もあるのです。
特定の感触。服や机、いす。紙やビニルなどの素材に違和感があり、工作や絵画のときに工作のりをさわれない、クレパスの引っかかりが気になるといったものもあります。
手を使ってもらうことが、とても大変で大切なことだと思い知らされます。
簡単な対策で対応できることもあります。例えば、プリントや画用紙の角を丸くすること。
角をとるだけで手に取ってくれることがあります。
素材の厚みを変える(二重、場合によっては薄くする。)などの手間を加える場合もあります。
角を取ることで感じ方、見た目の安心感を得られるようにしています。
意外と見た目は大切だと思います。
木材の角もできるだけ取り、丸みを帯びるようにサンドペーパーをかけ続けます。
手で握ってもらえるように、何度もさわっては削る作業を行っています。支援で使用する教材の半数以上が手作りのものが多いです。
写真の四角い木製ブロックも、角材を切りサンドペーパーで削った私の力作です。
ダンボール箱のかたちや大きさを利用して、トンネル遊びをするのですが、全体を紙でカバーすることで触れた感じを変える工夫をしています。
また、触れた感覚がわかりにくい場合でも、紙の擦れる音、破れることで腕や足が引っかかる動きで理解を促したりしています。
ダンボールと紙の間に、クッション材などを入れて硬さなどの変化をさせることで予想しなかった反応が出ることもあります。
トンネルから出たくないという子どもがいました。ジッと動かず、丸まった状況で、よく見てみると笑っていました。
「わかんないけど、おもしろい。」
触れた感覚が、こそばゆいような、ごわごわと硬いような、なんともいえないことが「おもしろい」ということばになったのではないかと思います。ここで注意してほしいことがあります。
感覚過敏は、子どもにとって理解しにくい反応なのです。「我慢が足りない」「わがまま」ではないこと、理解ができていないことを誰かに伝えることはできないと知ってください。
伝えることが難しいことを理解して、子どもの様子をできるだけ寄り添って観察することで緩和できることが多くなると思っています。
勝手な思い込みや経験は、何も生みだしません。
今ある状況を見つめ、解決策を考えるよりも「そうなんだ」と子どもの言い表せないことを少しでいいので笑顔で還(かえ)せたらよいのではないでしょうか。話を戻しましょう。
教室に咲く桜や風に揺れるもみじに取り組ませるか。
触覚過敏の子どもに手形の桜を咲かせるのは、超難関であることは理解いただけたのではないでしょうか。
手形をまったく最初からさせないどころか、話題にも出さない子どももいます。
「なに?これ?」
この言葉を待っています。絵の具の量、筆の質感、紙との接触面など、想定する内容はさまざまあります。
ファーストアタック!というわけではありませんが、一番最初に手形を付けてくれる子どもが重要です。
元気よく!できるだけ目立つように!「やりたい!」
このことばを引き出すために、シュミレーションするだけでなく、支援内容に手に関することを行っておくことも重要です。指で文字をなぞらせたり、簡単な工作や折り紙を折らせるなどといった指や手を動かすような支援内容に工夫を入れていきます。
逆にまったくきっかけになるようなことをしない場合もあります。
子どもひとりひとり、違うのですからケースバイケースです。ただ一点!興味をもってくれるか。
それ以上に…いつも心掛けていることがあります。
支援中に「笑顔」を見せてくれる瞬間を見逃さないこと。
大げさかもしれませんが、私の生きる活力は子どもたちの「笑顔」です。関西人の習性かもしれませんが「笑う」ことで、すべて丸く収まるという感覚があるのは確かです。
次につながるきっかけがみつかると思っています。
手形をつけたときに顔を見合わせて「できた」と笑顔になる瞬間、どれほどの達成感と自信に満たされているかを想像してください。
毎日、「何ができる?」「何をしよう?」の繰り返し。
「これって…笑ってくれるかな?」
そんな独り言をいいながら、子どもとかかわっています。(個人ベーシック閲覧期間:2019年8月2日まで)
【執筆者紹介】中水 香理(なかみず かおり)
活動地域:関西圏(大阪・京都・奈良・滋賀が中心)
ひとことメッセージ:大阪府内にある児童発達支援事業所で指導員として働く、娘と息子、二人の子どもの母です。息子の大好きなSEKAI NO OWARIのFukaseくんとの出会いが発達障がいを学ぶきっかけになりました。(ミーハーですいません。)
「脳と体と心」、勘違いされることの多いことだからこそ、考えていきたいです。
記事から、子どもたちと関わる中での楽しさや嬉しさが伝わってきて、もっと読みたくなりました。
感覚過敏は当事者にしかわからないというのは納得しました。感覚過敏だけでなく、珍しい病気や経験を持つ人、そうでなくても自分にしかない悩みを持っている人もいますし、それはまたその人にしかわからないことだと思うからです。ですので、感覚過敏の方が実際にどんな苦痛があるのかがわからないとしても、それがつらいんだという事実を知っていけたらと思いました。
笑顔ですべてが丸く収まる、いい言葉ですね。本当にその通りだと思います。相手が笑顔だと、こちらも笑顔になるというように、自分だけでなく人を幸せにする力を持っています。私も自分が笑顔でいること、相手が笑顔でいることを意識していきたいです。