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特別支援学級での日常:居場所って何?(ヒオ先生)

 

ヒオ先生

  
 「うわーん」
 
算数の問題で間違えたことがイヤで、泣きながら、教室を飛び出す三年生のA児。少しでもうまくいかないことがあると、A児は頻繁に教室を飛び出していました。
 
飛び出した後、A児はよく、学級園で水やりをしていました。
 
A児にとって、学級園はひとりになって、心を落ち着かせることができる「居場所」です。
 
 「ありがとう。お花さんも水をもらえてハッピーだね。落ち着いたら、戻ってきてね」
 
A児はしばらくすると自分で教室に戻ってきました。
 
 「はい、先生、あげる」 
 
今の時期、彼岸花、どんぐり、ススキを教室に持ってきてくれるA児。私たちに秋の訪れを感じさせてくれます。
 
 「ありがとう」
 
自然は、A児にとって、ひとりになる場でありながら、人と関わるためのプレゼントを見つける場にもなっています。
 
ある日、A児は、図工で使った残りの段ボールで、教室内に自分の家を作り始めました。奮闘しているA児を見て、私たち教師も家作りを手伝いました。
 
「Aハウス」ができると、A児は教室の外に飛び出さなくなりました。
 
イヤなことがあると、代わりに、「Aハウス」に入って、A児は心を穏やかにしているようでした。
 
「Aハウス」は、窓、ドアや棚も取り付けられて、どんどん進化していきました。A児は夢中になって、自分の「居場所」を自分で作っていました。
 
「Aハウス」は、友だちと関わるきっかけにもなっていました。
 
 「Aちゃん、入れて」
 
休み時間には、友だちが「Aハウス」にやってきます。A児は楽しそうに友だちと遊んでいます。ときには、ケンカをして涙を流したりもしています。
 
「Aハウス」は、A児にとって、人との関わりを楽しんだり、学んだりする「居場所」でもありました。
 
後期になって、算数の授業が隣の教室で行われることになりました。その教室には「Aハウス」がありません。
 
このときのA児は教室を飛び出すことは、ほとんどなくなっていました。でも、問題を間違えると、教室の隅のほうに行って、うずくまって苦しそうに泣いていました。
 
 「何でもしっかりとやりたいんだね。えらいね」
 「日直とか、いろんなことにチャレンジしてきたAさんなら、きっとできるよ」
 「大丈夫! 先生も応援したいな」
 
何度も声をかけていると、だんだんと、席に戻るまでの時間が短くなってきました。失敗しても、A児ががんばれるときが増えていきました。
 
ある時期、休み時間に、子どもたちの間で「学校ごっこ」が自然発生し、流行ったときがありました。
 
「学校ごっこ」とは、先生役と子ども役に分かれて、授業のまねをする、子どもが考えた遊びです。私たち教師も子どもたちに誘われて、子ども役をします。
 
A児が先生役をしたとき、私は感心しました。「A先生」は、たし算プリントを手書きで素早く作成。「はい、やって」と言って、子ども役にプリントを渡します。「A先生」は、てきぱきと指示して、子ども役の質問にも、しっかりと答えてくれます。
 
 「A先生、むずかしい! やりたくない!」
 
いたずら心がわいてきた、子ども役の私は、こう言って、廊下に飛び出してみました。
 
すると、「A先生」は追いかけてきて、私を教室に引き戻そうとします。
 
「分かった、がんばる!」と言って私は席に戻りました。「A先生」はじつに満足げ。
 
先生役をして、みんなと楽しんだり、みんなの役に立ったりする、休み時間のこの教室は、A児にとって、もうひとつの「居場所」なのかもしれません。
 
私はA児と関わりながら、子どもたちは自分で自分の「居場所」を生み出す力を持っていると信じるようになりました。
 
次に、朝の会の健康観察から、「居場所」について考えてみます。
 
……・・・………・・・………・・・………
日直(B児): Cさん?
C児: はい、元気です。
日直: Dさん?
D児: はい、元気です。
日直: Eさん?
E児: はい、元気です
日直: ...
……・・・………・・・………・・・………
 
日直の五年生のB児はいつものように順番に友だちの名前を呼んで、みんなの健康状態を尋ねていました。
 
 「先生は?」
 
ほかの日直とは違って、B児は私の健康状態も聞いてきました。私は何だか、うれしくなりました。自分の「居場所」もあるように感じたからです。
 
 「ありがとう。元気です!」
 
別の日の健康観察。
 
 「Fさん?」
 
B児が今度は、日直のF児の健康状態を聞きました。
 
 「はい、元気です」
 
日直のF児が元気に答えました。普段、日直は、自分の健康状態について話す機会はありません。
 
私はまた、うれしくなりました。
 
B児には、いつでも、誰にでも、自分の大好きなゲームの話を一方的にしてしまう傾向があります。
 
このB児が教師や友だちの健康状態をすすんで聞いてきたことにB児の成長を感じることができたからです。
 
また、お互いに関心を持って、その関心を伝え合うことで、ともに生きる「居場所」が生まれてくるということを、私はB児から学ぶことができました。
 
でも、「はい、元気です」という形式的なセリフの繰り返しには、どこか違和感や息苦しさを覚えます。
 
健康観察は、効率よく進んでいきますが、
 
 「本当に、いつも元気なの?」
 「何で、元気なの?」
 「いつも元気でいなければいけないの?」
 
私には、こんな疑問がわいてきます。
 
さて、月曜日の朝、三年生のF児が泣き叫んで、一緒に来た母親を困らせています。
 
 「学校、イヤ! おうちに帰りたい」
 
私にもF児の訴えに共感するところがありました。だから、健康観察で言ってみました。
 
 「はい、元気がないです。もう1日休みたいです」
 
F児は、きょとんとしていました。
 
それから、子どもたちの健康観察の返事が少しずつ多様になってきました。
 
 「ちょっと、イヤです」
 
こう答える子どもたちが増えてきました。
 
「何で?」と私が聞くと、
 
 「今日は6時間(授業)だから」
 「今日は体育があるから」
 「キライな魚が(給食で)でるから」
 
など、いろんな答えが返ってきました。
 
 「学校が大キライです!」
 
F児も大きな声で、少し笑いながら答えています。
 
私は、学校が、ありのままの自分が受け入れられる「居場所」であってほしいと願っています。
 
健康観察は今、ネガティブな気持ちも自由に表現できる場になっています。
 
 「分かる、分かる!」
 
ネガティブな気持ちの話の中に、お互いに共感できることがあって、笑いも起きます。
 
最近はF児が、朝、「おうちに帰る」と泣き叫んで、母親を困らせることはなくなりました。登校しぶりの兆候が見られた子どもたちも今はいません。
 
 「先生、『学校ごっこ』しよう!」
 
今日、こう言って私を誘いに来たのはF児。
 
こんな愉快な子どもたちと学び合う学校は、私にとっての大切な「居場所」です。

  • (個人ベーシック閲覧期間:2019年12月15日まで)

  • 【執筆者紹介】ヒオ先生
    「学校教育で、よりよい社会を創る」という野心を持った公立小学校の教師です。通常学級、日本語学級、特別支援学級を担当してきました。専門は異文化間マネジメント。小学校の前は、大学や企業で講師をしていました。


  • 好奇心が強く、いろんな国の人と関わったり、外国へ行ったり、そこで暮らしたりすることが大好きな地球人。中2までに、海外を含めて7回学校を変わった「転校のスペシャリスト」でもあります。このイラストは偽物っぽいかも。実際の本人は海外に行くと多くの国で、「現地の人」と思ってもらえる特技を持っています。「ヒオ」は、ポルトガル語で「川」という意味。自分の理想の生き方「上善は水のごとし」につながる言葉なので気に入っています。

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