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「僕は僕なんだから」ができるまで(対談)①

この動画は今はもう成人となった自閉症のお子さんを育ててこられたお母さんが、発達障がいのお子さんを今育てられているお母さんたちの集まりで、ご自分の経験を語られたことがきっかけで作られました。そして自分の経験がほかの皆さんのお役に立つのなら、というお母さんの思いがこの動画に込められています。元は実際の写真を使った動画でしたが、プライバシーなどに配慮し、イラストで作り直したのが現在の動画「僕は僕なんだから」です。
そのお母さんと、お母さんと共にお子さんを支援してこられたスタッフの方に、この動画のもとになった写真版の動画ができるまでを語り合っていただきました。


  • ■動画制作の経緯

    山本:ビデオを作ろうと思われたきっかけとか、作っているときの想いを教えてください。どなたから言い出されたんですか。

    K:Yさんの方から「講演で保護者の方にお話をさせていただくためにKさんのエピソード、思いも取り入れたいので、よければ協力していただけないでしょうか」という感じで始まったんですよね。

    Y:そうですね。私が講演会で療育についてお話をすることになって、Kさんに協力して欲しいとお願いしたことから話が進みました。そのときに私がお伝えしたのは、「KさんとS君が、嫌だと思ったらいつでもやめます」、「KさんとS君の気持ちをいちばん大切にしたい」ということでした。

    K:はい、そうでしたね。

    Y:Kさんは、いつも「誰かの役に立つことであれば、やりますよ」と、言ってくださっていました。そして、ママカフェ(保護者の交流のための会)でお母さんたちと話をしたときも、Kさんから「お母さんたちの悩みを聞いたり一緒に考えたり、お手伝いできることがあればやりますよ」と言ってくれていたので。

    もともとそういう気持ちのある方だって分かっていましたが、今回、ご相談をして「いいですよ」って言ってもらえたときは、うれしかったです。

    そして、講演用にでき上がった動画は、Kさんの了解なしに勝手に使用することはしない、ということを最初にお約束しました。

    私が心配していたよりもKさんの方が「いいですよ」って言ってくれた。そんな感じでスタートしました。

    ただ、S君の働いている職場の写真も写っているので、外部に出回るのは、気をつけていかなければいけないというのは、ふたりの中で確認をしていました。

    K:はい。

    山本:Kさんはそうやって話を持ちかけられたときに「動画を作ろう」という持ちかけられ方だったんですか?

    K:いえ、最初はYさんから「S君の写真を何枚か貸していただけたら」と言われ、動画は考えてはいなかったんですが、たまたま同じ職場のスタッフの方が、業務用のムービーを作っていたんですね。それを見たとき、「こういう感じで作れる方がいるんだ」と思い、Yさんに伝えたところ、即、スタッフの方にお願いすることになりました(笑)。

    写真の選択については、私の方からこの場面でこの写真を使いたいと希望を伝えた以外は、スタッフの方のセンスでアレンジし、素敵に仕上げてくださいました。

    ■ひとりじゃないと伝えたかった

    山本:あの中で特にこの写真はここに入って言う、思い出のシーンっていうのはどれになったんですか。

    K:けっこうありました。その中でも「僕はゆっくり、ゆっくりだから」の写真は、運動会で見せた「ビリだけど楽しく走る姿」が息子の強さも感じられ、言葉そのものだと思ったこと。いちばん最後のところで、私と息子が山をバックに、手を広げて写っている写真は、保護者のみなさまに「明るい気持ちで一緒に頑張ろう」、「ひとりじゃないよ」というメッセージを込めて、この写真は絶対最後に使いたいと思っていたんですよね。

    一番に、見ていただいた方に「ひとりじゃないよ」っていうのをどうしても伝えたかった。障がい児を持つ母はすごく孤立しがちなので本当に。

    辛さや自分の弱い部分を見せられないお母さんって絶対いると思うので、わずかでも何かの気づきや、心に寄り添えたらと思いました。

    ■S君の思い出の写真

    Y:あの写真の中で、私が「絶対これ入れて欲しい」って言ったのが、いちばん最初の写真かな。車の前で、説明書を持ってる写真。

    K:自閉症の特徴でもあるのか、小さいときから字にこだわりがあって、どこに行くにも説明書とか電話帳とか、必ず持ち歩いて出かけていたので(笑)。

    Y:私のS君のイメージってあの写真の感じでしたね。いつも説明書を持って、ボロボロになってね(笑)。

    K:本当にそうですよね。ボロボロになるまで愛用して、Sらしいなって思います。

    Y:あそこからが出発だったなー、っていう、その1枚ですね、あれは。

    K:発達段階で言葉が出ず、悩んで初めて読んだ本に、「文字に執着している子どもは今すぐに療育したほうがいい」と書いているのを目にして、「まさに!Sだ!」とハッとしましたね!

    ■療育の開始と障がい受容の迷い

    K:あの写真をひさびさに見たときは、懐かしさと複雑な思いが蘇ってきましたね。当時は文字をすぐに覚えることはすごいけれど、「定型発達の順番ではない」というのを受け入れなければいけないんだな、と思っていたので。

    山本:その「受け入れなければならない」と思ったのはいつごろになるんですかね?

    K:やっぱり療育施設に通うことを決めるときですね。自分の中に「発達が遅れているだけ」って思いたい気持ちが強かったので、「通う=障がい」を認めなければいけないのかな、って、かなり葛藤がありました。

    でも「その葛藤を越えなければこの子は発達していけないだろう」、自分の気持ちよりも、「やっぱりこの子がいちばん苦しんでるんじゃないか」って一番に考えてあげなければいけないと、満3歳から本格的に療育施設で母子通園をスタートさせました。

    初めは思うようにいかず、悩んだこともありましたが、療育施設で出会った先生はじめ、お母様の存在に「ひとりじゃない」って思えたし、私自身が「障がい」を受けいれることができました。もしも通っていなければ、素敵なご縁も、今の息子も私もいません。

    山本:そこでYさんとの出会いがあったっていうことなんですか?

    K:はいそうです。

    ②につづく

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