「僕は僕なんだから」ができるまで(対談)⑤
この動画は今はもう成人となった自閉症のお子さんを育ててこられたお母さんが、発達障がいのお子さんを今育てられているお母さんたちの集まりで、ご自分の経験を語られたことがきっかけで作られました。そして自分の経験がほかの皆さんのお役に立つのなら、というお母さんの思いがこの動画に込められています。元は実際の写真を使った動画でしたが、プライバシーなどに配慮し、イラストで作り直したのが現在の動画「僕は僕なんだから」です。
そのお母さんと、お母さんと共にお子さんを支援してこられたスタッフの方に、この動画のもとになった写真版の動画ができるまでを語り合っていただきました。
■自分の力で初めて体温調節
Y:S君が東京に来たときに、とても暑い日で、自分から上着を脱いだよね。
K:うん初めて。体温調節なかなか自分でできなくて……。
Y:自閉の子ってよくそういうのあるんですけれど、暑いと思って脱ぐっていうことができないんですよね。で、そのときにさすがに東京は暑かったんですよね。苦しいほど暑かったんです(笑)。
そしたら本人が脱いだ方がいいと思ったみたいで、脱いだんだよね。そして、ただそれだけのことなんだけど、すごく感動したことを思い出しますよね。K:多分、少しくらいの暑さじゃそこまで自分では…
Y:自分の実感として脱ぎたいっていうところまで思わないって言うか。東京は死ぬほど暑いから、「これは脱がなきゃ」って思って。「これが暑いと感じて脱ぐっていうことだよ」って初めてできた瞬間だったよね(笑)。
K:(笑)そうそう、本当に悩みだったんですよね。着たら着たまま。
小さなそういう悩みがいっぱいありすぎて。これは障がい児を持つママとは、ほぼ共通する悩みの一つです。
■リベンジする
K:外に目を向け、いろいろ連れ出してきたけれど、けっしてスムーズにいったわけではありません。一度何かにつまづいてもそこでけっして諦めないことが大事です(笑)。
私の例でいうと、息子は映画館には5回目ぐらいでようやく入れたので。最初は泣いて入れず。まず店に行き外観を見せることから、次はこの段階、次はこの段階という手順を踏んでいけばうまくいくこともあります(そのたびにお金を投げることもありますが)。そのとき、理解できても理解できなくても、「次はここまで行くよ」と子どもと約束してみてほしいです。子どもなりに折り合いをつけながら「リベンジする」気持ちが芽生えたりもするのです。あとは写真を見せイメージさせることも。
■免疫つけておかないと
K:いきなり行ってパニック起こして「もう家(うち)だめ」って。それでどんどん世界観を狭めてしまっていっているっていうのがすごくある。「いやでも、適応できる力って絶対あるから」って言っても、それも小さいうちから、そういうのを経験させていかないと、本人の気持ちのコントロールもできなくなる。
だからけっして「自閉症だから変化に弱いから」って、すべて片付けてしまうという狭い世界の中だけじゃないから。本人自身がリベンジするって思えるその逞(たくま)しさがね、実際何人もいるので。うちの子だけじゃなくて、もっとこだわりが強くて大変な友だちのお子さんもいるんですけれど、だからといって、行かないわけじゃないし。
親はもうビクビクなんですよ。家(うち)も今の職場の環境でしか仕事をしていないので、最近小さい女の子のキャッキャーっていう、その声にまたちょっと敏感になってきていて、ご飯も食べに行きたがらなくなってきたんですね。最近気になっている感じなんですよ。ちょっと声が聞こえてくるともう帰りたいような雰囲気で、「お母さんまだ(料理)来ない?」みたいな感じで、「あーまた始まってきたなー」って思って。やっぱり免疫つけておかないと弱くなっちゃうんですよね。
■ちょっとの困り感は大事
K:ちょっとの困り感はむしろないと、生きていくのに守りすぎてもダメかなって思っているので、ちょっとしたチャレンジはやっぱりつねに必要。
Y:S君が初めて東京に出てきて、駅の改札口のところで私が待ってて、S君が来たときに、耳を押さえてた(笑)。それで「よく頑張ったね。トンネル大丈夫だった?」ってまず聞いたよね。新幹線はけっこうトンネルあるじゃないですか。だからあえて自分が嫌なことを経験して東京に出てくるって、その決断をされたお母さんもすごいし、本人もすごいし。
でも今思えばあのときS君がいちばん辛いときだったよね、いじめにあっていて。
K:そうでしたね。音には敏感であるけれども音楽は好きだし、つねに電車の時刻表を見ているから、だったら本物を見せてあげたい。多少の困り感で辛い思いはあっただろうけれども、旅行することで、好きなものの中から困り感を減らすことはできたかなと思います。おかげで今では東京が大好きになりました(笑)。
■喜びと期待感で困難さを超える
Y:喜びと期待感の方が彼にとって、困難さを飛び越えちゃうんだよね。
K:はい(笑)飛び越えます。
Y:そこが彼のすごいところだと思います。
K:こうやりながらも(耳を押さえる)ですね、うん本当に。
<対談終わり>
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