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特集テーマ「自分らしく生きる」について

特集テーマ「自分らしく生きる」について

  • 発達支援研究所 所長
    山本登志哉

    ■特集テーマのコーナーについて

    はつけんラボではこれから3か月に一度、特集テーマを選んで、そのテーマをいろんな角度からいろんな方たちと考えていきます。文章によるものも動画によるものもありますが、その内容を見てまた次の人がさらに議論を進めていく、といった展開も考えています。

    ■2019年7月~9月 特集テーマ「自分らしく生きる」目次

    動画:僕は僕なんだから

    対談:「僕は僕なんだから」ができるまで /③~⑤(近日公開予定)

    エッセイ:
    翻訳家は水場を用意して待つ(岩尾 紘彰)
    自分らしく生きることについて(大山利幸)
    「自分らしく生きる」 ー自分を好きになるー(櫻庭愛子)
    自分らしく生きていくとは?(高本聖吾)

    ■二次障がいという問題

    第一回は「自分らしく生きる」。発達障がい問題でいちばん重要な問題は「二次障がい」だと思います。一次障がいは持って生まれた特性なので、基本的に生涯変わることはありません。ただその特性とうまく付き合い、定型社会と折り合いをつける道を探り、さらにはその特性を逆に強みとして活躍する道を見つけていくことが課題です。

    けれども、うつや引きこもり、自傷・他傷などの二次障がいは環境との折り合いが悪いために起こるもので、別に生まれつきのことではありません。折り合いがうまくつけば、二次障がいは起こらないのです。そうなれば二次障がいに苦しんで、それがなければもっと前向きに頑張れる力がそがれることもありません。

    ではなぜ二次障がいになるかというと、周りの要求と本人の特性が合わないからです。無理なことを要求され続けることで葛藤が蓄積され、それがやがて深刻化すると二次障がいに至ると考えられます。

    簡単に言うと、自分の特性に合わない形で「定型になれ」と言われ続けるために起こる障がいなのです。

    ■発達障がい当事者が自分らしく生きられること

    たとえば自分が男性であるということは、生まれながらの特性で変わるものでもないし、治療の対象でもありません。「女になれ」と言われる筋合いのものでもありません。そんなことを無理に要求されたら、やはり「二次障がい」が生まれるでしょう。その意味では発達障がい者が二次障がいになる仕組みも同じです。(もう少し詳しくその仕組みを知りたい方は、講演動画「思春期と二次障がい」をご覧ください)

    それは自分が生まれながらに(その意味で自然に)持っている「自分らしさ」を頭から否定さ、拒否され続けることによって生まれる二次的な障がいなのです。

    そう考えると、発達障がいの問題への取り組みのいちばん大きな課題は「自分らしく生きられる状況を作る」ことにあるとも言えます。

    ■自分らしさが否定される仕組みとその変化

    ではなぜ発達障がい児・者は「自分らしく生きる」ことを妨げられやすいのでしょうか。これも答えは簡単です。発達障がいの特性が定型発達者の特性とあわず、定型発達者に合わせて作られている社会の要求とぶつかってしまうからです。

  • たとえば定型発達者は「先生の要求に従って静かに座って授業を聞く」ということが身につきやすい特性を持っています。だから学校はそういう仕組みを利用して集団による一斉授業を成り立たせます。その方が効率が高いからでもあります。江戸時代の寺子屋などは各自が自分のペースでバラバラに授業をしていましたが、明治に入ってその方式が一斉授業方式に変わったのです。


  • ■発達障がい特性の新たな可能性

    今は、IT技術などを使って改めて「個人単位で自分のペースで参加できる学習」形態が可能になり始めています。塾業界などでもいまは個別学習が大流行です。そうなると、いずれ学校の授業も改めて個人単位の新しい形態が大幅に導入されることになるでしょう。すでにタブレットを使った教材活用などが始まっているのは、その兆候の一つです。その方が変化の激しい、常にイノベーションを生み出していかなければならない世界の動向にも合っているからです。

    そんなふうに社会の仕組みが変わると、今まで否定的に見られてきた発達障がいの特性は、たとえば「独創性がある(空気を読めない)」とか「集中力がある(こだわり)」とか、「多面的に柔軟に活躍可能である(関心が移り替わって集中力にかける)」などと異なる評価の中で積極的に受け入れられる可能性も出てきます。

    世の中が激しく変化する中で、改めて「自分らしく生きる」とはどういうことなのかを考え、二次障がいを避けてむしろ活躍できる生き方を探っていくことが、これからの大事な発達障がい児・者支援の方向だといえるでしょう。

    とはいえ、ここで問題にしたいのは、単に発達障がい児・者が「自分らしく生きる」ことだけではありません。

    ■定型発達者が自分らしく生きられなくなる場合

    カサンドラ症候群と名付けられた困難があります。これは定型発達者と発達障がい者(この場合はアスペルガー者)のパートナー間で時折起こる困難で、お互いの特性がぶつかる中で、逆に定型発達者が追い詰められ、時に重篤なうつや自死にも至ることのある状態です。また職場でも上司が自分の特性に気づいていない発達障がい者である場合、定型発達者の部下がその上司に苦しめられる、といった形で困難が生じるときもあります。

    苦しむのは発達障がい者だけではありません。お互いの関係によって、時に定型発達者が苦しめられることもあります。その時は今度は定型発達者の方が発達障がい者の特性に合わせることを強要され、やはり自分らしく生きることを否定され、深刻な状態に陥るわけです。

    ■お互いに自分らしさを失わず、活かしつつ、折り合って生きること

    ですから、大事なことは定型発達者の特性を絶対のものとして理想化することでもなく、逆に発達障がい者の特性を素晴らしい理想として語ることでもなく、お互いの特性の長所を認め、短所を補い合って、それぞれの「自分らしさ」を活かしながらも折り合いをつけて生きる道を探ることだと考えられます。

    どうやったらそんなことができるのでしょう?そもそも「自分らしさ」って何なのでしょう?まずは「私が思う自分らしさ」についていろんな方に語っていただき、だんだんとこのテーマを深めていきたいと思います。

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