発達支援交流サイト はつけんラボ

                 お問合せ   会員登録

はつけんカフェ

【アメリカの発達障がい事情】① 自己紹介とコミュニケーション

この記事を読むには7分ほどのお時間がかかります

下川 政洋(しもかわ まさひろ)

まずは、簡単な自己紹介から始めようと思います。

  • 私は発達支援研究所の客員研究員の下川と言います。もともとは、異文化間の問題に関心があって、臨床心理学の道に入りました。

    今年は私的な理由もあって、1年間の大半をアメリカで過ごしています。


  • (筆者)
  • ところで、アメリカで何か臨床に関する社会参加ができないものかと、できそうなことを探していました。何気なく大学院時代の指導教授に話したところ、「チャペルヒルは、自閉症スペクトラムの総本山だよ。自閉症の名前を自閉症スペクトラムと変えたのもあそこだから、自閉症関連を探したらいいよ」と言っていただきました。

    そんなことで見つけたのが、今回その体験の手記を書かせていただくTEACCHプログラムというものです。つまり、私は決して自閉症の専門家でもないし、TEACCHに詳しい訳でもなく、自閉症の素人がTEACCHプログラムに挑戦してみたとういうのがこの体験記になります。



  • (研修の行われているTEACCH所有の建物)

  • ところで、私が初めてTEACCHプログラムの名前に接した時に、私の臨床経験を思い出しました。アスペルガー症候群の診断を受けた、二人の成人のカウンセリングを担当したことがあったからです。この二人のクライエントさんの状態はまったく対称的で、一方の方(かた)は幼少のころからご両親の深い理解に恵まれて、専門家による可能な限りの援助を受けて来られました。そのためか、気分的なものもとてもおだやかな印象で、社会適応もかなりできる方でした。しかし、もう一方の方(かた)は、ご家族や周りの方の理解が必ずしも得られず、深い怒りを長年に渡って蓄積されて来た方でした。いわゆる2次障がいと呼ばれるものが、本来のアスペルガー症候群よりも、ご本人を苦しめているご様子でした。

    こういう対称的なケースを担当したために、自閉症とその環境の問題についてそれなりの関心を持っていました。おそらく、ご本人にとっては、かなり本質的な問題であると肌身に感じました。というのも、ある時この環境に恵まれなかったクライエントさんが、面談室で唸るように怒りを表現されたことがありました。その表情はまるで阿修羅のようで、こちらが震えてしまうような地響きのような声だったのを覚えています。

    ここで少し話を変えて、TEACCHプログラムについて簡単な解説をさせていただきます。まず、TEACCHの名前ですが、Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Childrenのアルファベットを並べたものです。「教える」のTeachにCが一つ追加された綴りで、仮に直訳するならば、「自閉症およびコミュニケーションに関連した障がいを持った子どもの治療または教育方法」とでもなるかと思われます。

    ここでひとつ言えるのは、Autistic and related Communication handicapped、つまり、コミュニケーションの不適応を援助することに重点が置かれていることです。映画「レインマン」で広がったイメージのように、必ずしも知的水準と関係があるとは言えない、定型発達の人とのコミュニケーションのズレから生じる、不必要な問題を軽減することが重視されています。

  • のちにトレーニングの中で教わったデータによりますと、ノースカロライナの成人の自閉症スペクトラムの被診断者のうち、42% の人が職に就いており、42% の人が無職、16% の人が以前は仕事があったが現在は失業中だそうです( n = 278)。この、仕事を失った人がクビになった理由の多くは、コミュニケーションのズレと関係があるそうです。

    たとえば、人と話す時に適切なパーソナルスペースを取ることができず、顔を思いっきり近づけてしまい、相手から気持ち悪がられてしまう。あるいは、ちょっとすれ違ってもあいさつをしない。あいさつをされない人は、「俺のことが嫌いなんじゃないか」「この仕事が嫌なんじゃないか」などと誤解をしてしまう。加えて、ちょっとしたことが頼めないことも多いそうです。「ちょっといいですか?」のように教えを乞うたり、Why, What, Where, When, Howを使った質問をすることが難しい人がいるそうです。ですので、以下のような教材を使って幼少時から援助を求める方法を学習するそうです。


  • (お勉強の途中で助けて欲しい時に使うサイン)

  • (この写真を見て Who What Whereの使い方を学習します)
  • それから、会話を切り上げるタイミングが難しい人がいるそうです。これは実際にあったエピソードですが、自閉症スペクトラムの人で、一度話に夢中になると止まらなくなってしまう人のお話です。工場で働く自閉症スペクトラムのAさんが、上司Bさんと話し始めて止まらなくなってしまった。仕方がないのでBさんは、その部屋を出ることにした。それでもAさんは追いかけてくる。話を続ける。それなのでBさんは、その工場を出て事務所のある建物に歩いて行くことにした。それでもBさんは追いかけてきて、延々と数百メートルも話し続けたそうです。この時は昼休みであったので、決して就業規則に違反しているのではない。それでもやはり、その状況に適した行動とは言えないわけです。こんなことがきっかけで、実際には職を失ってしまうそうです。つまり、実際の生活の中では、コミュニケーションのズレがとても自閉スペクトラムの人を苦しめているようです。

    以下にあるのは、非言語コミュニケーションで重要となる、表情の意味を理解するために使用されている教材です。



  • (表情のサインを学習する教材。始めは色のグループに分けます。「この人はどんな感情をもっているだろうか?」そんな質問を繰り返します。)

     



  • (上の表を使って、自分の感情を表現してみよう)

  • とりあえず、第1回目としては、簡単な自己紹介とコミュニケーションについて書かせていただきました。次回は、「外から見たTEACCH」について書かせていただこうと思います。TEACCHの特性として、社会的に成功した援助法と言うことができると思いますが、その理由を社会的背景などを考察することで考えてみたいと思います。

  • 【執筆者紹介】下川 政洋(しもかわ まさひろ)

    (発達支援研究所 客員研究員)

    51才です。国際医療福祉大学で主に家族療法を学びました(研修員)。偶然ですが、今年は個人的な事情で、ノースカロライナ州のチャペルヒル市に滞在することが多いです。そして、ここで、自閉症スペクトラムの援助方法であるティーチ・プログラムに出会いました。こちらで感じるのは、発達障がいの人を援助する現場の「空気」が違うということです。「これってなんなんだろう?」と不思議に感じています。言語化がとても難しいです。この辺りの感覚を、攫んで帰りたいと思っています。家族療法もティーチ・プログラムも初学者でございますが、よろしくお願いします。


タグ

RSS

コメント欄

  1. まー まー

    TEACCHについて言葉は聞いたことがありましたが、その意味について今回初めて知ることができました。自閉スペクトラムの人の例で話をし続けるAさんに対しBさんはかわいそうに感じましたが、それ以上にどうしても話してしまうAさんはもっとつらいはずです。発達障がい者の家族や周りの人の苦労話はよく聞きますが、何よりも本人が思い通りにいかなくて苦しんでいるのだと思います。また、それを解決・軽減してくれる環境があるかないかでその人の人生は大きく左右されることから、このTEACCHの取り組みは非常に良い支援方法だと感じました。もっとTEACCHについて知りたいです。

  2. 406 下川政洋 406 下川政洋

    まーさま

     コメントを頂誠にありがとうございます。

     おしゃっるように、コミニュケーションのズレは、AさんにもBさんにも苦痛をもたらしてしまうようです。それでいて、どちらにも悪意はないのですから歯がゆいものも感じます。

     TEACCHにこれが解決できるのでしょうか?そうできるなら嬉しいと思っています。と申しますのも、本文でも述べた通り、私は初学者ですので、正直申し上げてまだ深く理解できておりません。

     気をつけたいと思っているのは、援助者のための理論にしないことです。援助活動は辛い事も多いですから、何かの理論に「すがりたく」なってしまうことがあるように思います。援助者のための「心の支え」ですね。そうすると、クライエントさんのための理論なのか、援助者のための理論なのか、見分けがつかなくなってしまうと思います。

     ただ私は、TEEACHに希望を持っていますので、今後も学習を続けて、クライエントさんのためになることが実感出来たらステキだと思っています。

     重ねまして、コメントをありがとうございました。