【福祉の基礎を考える】①「障がい」って?
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金光 建二(かねみつ けんじ)
このようなお話をお伝えする機会をいただきありがとうございます。今までの経験から得たものをみなさんにお伝えすることで、少しでも障がいのあるお子さんに対しての一助になればと思います。
みなさんは、「障がい」って言葉についてどんなイメージがありますか?
「障がい」と聞くと何かマイナスで「特別なもの」というイメージはないでしょうか?今からみなさんと一緒に「障がい」って何なのか、一緒に考えていけたらと思います。
ひとくちに「障がい」といってもいろいろな「障がい」がありますよね。「身体障がい」「知的障がい」「精神障がい」は昔から言われていましたが、近年「発達障がい」「内部機能障がい(心臓などの臓器や呼吸器・免疫などの身体の内部の機能障害)」なども言われるようになってきました。
まず、「障がい」と言われてイメージされるのは身体に障がいのある方、特に車イスに乗られている方が多いのではないでしょうか。いわゆる「肢体」に障がいのある方ですが、実際にはどれぐらいの割合なのでしょうか。
内閣府のホームページでも公表されている「生活のしづらさなどに関する調査」「社会福祉施設等調査」「患者調査」によると(注1)、平成28年で 身体障害者(身体障害児を含む)436万人、知的障害者(知的障害児を含む)108万2千人、精神障害者392万4千人、発達障害と診断された方は48.1万人と推計されています(注2)。
数字で見ると、思っていたより知的障がい・精神障がいの方が多く感じられたのではないでしょうか。また、障がいのある方の総数が国民のおよそ7.4%にあたり、13.5人に1人は何らかの障害を持っているということを多く感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、身体障がいのある方の中で3分の1近くは内部障がいのある方なのですが、そんなにたくさんいるとイメージされていた方は少ないのではないでしょうか。
人間は視覚情報による情報獲得の割合が大きく、目に見えて分かることに対しての認識や理解はしやすいのですが、実際に見えないものについてはイメージしにくい、または認識しにくい傾向にあります。目に見えて分かる肢体不自由の方はどこに障がいがあるかイメージできて意識しやすいのですが、肢体不自由がない障がいのある方はすぐに分からない。実際に私たちは障がいのあるお子さんに関わっているので、その数の多さやその特性も分かるのですが、一般的にあまり関わりのない方については上記の数字を聞くと「そんなに多いんだ」と感じたのではないでしょうか。特に発達障がいは上記の数字以上に潜在しているとされているので、余計に理解されにくい部分が多いのではないかと思います。
また、自分の知らないことに対して、どうしたらいいか分からず距離をおいてしまうことはないですか?以前、知的障がいのある方の施設で働いていた時に実習生やボランティアの対応をしていたことがあったのですが、初めて知的障がいのある方と関わるときはみなさん興味や関心よりも「不安」の方が大きく感じられました。なので最初に、関わる上での注意点を伝えた上で、関わりやすい方とマッチングし、できるだけ関わる時間を多くとるようにしました。そして、その後の振り返りで「最初と今とで障がいのある方のイメージはどう?」と聞くと、ほぼ全員が「思っていたのと違って楽しかったです」と答えてくれました。やはり最初は「怖い」「どう接したらいいの」と不安が大きかったようですが、関わっていくにつれて相手がどんな人か分かり、接し方が分かり、徐々に打ち解け、関わりが持てるようになったことで、そのことが楽しさに変わっていったようです。その時に決まって伝えていたのが、「電車の中で隣に座った見知らぬ人にいきなり話しかけてと言われてもなかなかできない。それはその人がどんな人かも分からないのに話しかける怖さがあるから。障がいのある方との関りもそう。『障がい』があるから不安だったんじゃなくて、その障がいやその人について『分からない』から不安が大きかっただけで、その人がどんな人か分かり、その障がいの特性がどんなものか分かれば怖さも少なくなり、興味や楽しさの方が強くなる。だから『障がい』があるなしではなく、その人自身をしっかり見つけて関わってね」ということでした。
「障がい」について、その人について知ることで関わることができ、その人のニーズに対して的確に対応することができるようになると思います。
ただし、そこで気をつけてほしいことは、あくまでその人「個人」ありきであるということ。「障がい」について、それぞれの障がい特性を学び、知識を深め、経験を積んでいくことはもちろん大切なことですが、障がいでその特性を決めつけてしまい、その人について「彼は自閉症スぺクトラムがあるから、~できないに違いない。」といった本人とは違うイメージをレッテルづけてしまうことがあります。専門性が高くなると余計にその傾向は強くなると思います。
障がい名によって特性の傾向を知り、事前に起こりうることに対して対策を立てて支援するのは必要ですが、決めつけによりその人の可能性を狭め、方向性を限定させてしまうことがあります。障がい名が一緒でも、生育歴や経験の内容、周りの環境、そして本人がそもそも持っている資質に関しては、とても障がい名で分類できるようなものではありません。
まずは「people first」、そして「障がいありき」ではなく、「人ありき」。そこに障がいという「個性」が加わり、その人が存在している、といった認識をする必要があるのではないでしょうか。
さまざまな支援の現場で、いろいろな利用者の方やそのご家族の方、支援者の方を見てきました。その中で利用者に対して「~な障がいを持ってかわいそう」や「~できないから代わりにしてあげないといかん」などいう支援者も少なくないです。もちろん、できないことを無理やりさせたりすることはいけませんが、障がいのある方に対して「かわいそう」と思うことは、障がいを含めたその人ありきを否定してしまうようで、自分としては受け入れられません。支援者が「障がい」自体を「悪いもの」として捉えているように感じてしまいます。支援者がそう捉えていたら、障がいについて何も知らない人、そこに関わる機会がなかった大多数の人たちはもっと「障害がある人はかわいそう」と感じることでしょう。
では、実際に障がいのある方は「かわいそう」なのでしょうか?
今まで関わってきた方々を思い返すと、趣味に興じて日々楽しそうにしている方、将来について嬉しそうに語られる方、家族の話を笑顔で話される方…。それぞれに自分の人生を楽しく過ごされています。もちろん、ご家族が亡くなられた、何をやってもうまくいかない、などいい話ばかりではありませんし、「かわいそう」と感じることもあります。でもそれは、その人がかわいそうなのではなく、その人のその状況がかわいそうなだけであって、人生の中の特定の場面でのみ、そうであるにすぎません。実際に「障がい」がなくてもかわいそうな状況の方は世の中にはたくさんいますし、自分自身もそう思われる状況もあったかと思います。
先ほどの「障がい」についての捉え方と「かわいそう」についての捉え方はある意味共通しているかもしれません。それは、受け手側の取り方によって本人の思いとは関係なくその人の状況をマイナスなイメージでとらえられてしまうということです。これは発達支援研究所山本所長のお話にもある「二次障がい」に密接に関係してくると思います。善意からかもしれませんが、結果的に障がいのある方当人を苦しめてしまいかねない。
しかし、マイナスのイメージではなく、プラスのイメージを持つことも多いのです。わたしの妻には視覚障がいがあり、ほとんど視野がありません。サポートが必要なことも多く、大変と言えば大変なのですが、どちらかというとそのおかげで視覚障がいのある方の状況や対応が分かったり、盲導犬と一緒に過ごすことができたりと、ほかでは味わえない貴重な体験ができています。障がいうんぬんではなく、自分と自分の周りの環境とどう過ごしていくかの方が大切だと思います。実際に障がいがあっても楽しく人生を謳歌されている方は、障がいがあるからできない、ではなく、障がいがある中でどうやったらできるようになるだろう、と考えている方が多いと思います。いい意味で前向きにとらえることが重要だと思います。
「障がい」は分類するためには必要な言葉ですし、必要な配慮を考える上でも大切だと思います。でも、一番大事なのは、その言葉に左右されることなく、みんなが笑顔で過ごせるために何をしていかなきゃならないのかを一緒に考えていくことだと思います。
一人一人の笑顔のために。
障がいについてみなさん分かっているはずのことなのに、少し思いが傾くと誰のための支援か分からなくなってしまう方が経験上多く感じたので、今回は、まず総論的に障がいについて考え直してみましょうということで書かせていただきました。次回は子どもについて、その次は私自身がpeople firstについてどう関わってきたのか、具体的なエピソードを交えてお伝えして行きたいと思います。
(注1)内閣府「平成30年版 障害者白書」
(「身体障害者」については、在宅者:厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」(平成28年)/施設入所者:厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成27年)等より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成。「知的障害者」については、在宅者:厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」(平成28年)/施設入所者:厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成27年)より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成。「精神障害者」については、外来患者:厚生労働省「患者調査」(平成26年)より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成/入院患者:厚生労働省「患者調査」(平成26年)より厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部で作成)(注2)厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」(平成28年)調査結果の概要 第3表
【執筆者紹介】金光 建二(かねみつ けんじ)
関西で発達障がいの子どもの支援に関わっています。
大学で社会福祉を学んだあと、児童養護施設、知的障害者通所更生施設、生活介護・就労継続B型の多機能事業所、特養、高齢者デイサービスなど渡り歩き、児発管を経て今は関西地域の統括をする長をさせていただいています。いろいろなライフサイクルを現場で見た中で、人と関わる上で「たいせつなこと」についてみなさんと共有して行ければと思います。
趣味は漫画を見る、料理を作ることです。よろしくお願いします。
(「金光 建二」執筆記事一覧)
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