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【特別インタビュー】「形成論から考える発達障がい」②(浜田寿美男先生)

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浜田寿美男(客員研究員・奈良女子大学名誉教授)
聞き手:山本登志哉(発達支援研究所 所長)

人の心理現象を「外側」から「客観的」に理解するのではなく、状況の中に巻き込まれてもがきつつ生きている生身の人間の心理的な世界を「渦中の視点」から描く、という大事な議論を続けてこられた浜田寿美男先生に、その視点から発達心理学を考え、また発達障がいを考える視点についてお話を伺いました。

  • 2)自閉症を理解する視点
    山本:そうすると、ピアジェの理論に対人関係やコミュニケーションの視点の欠如というところで違和感を感じながら、そこと自閉症の方たちの研究とがどうリンクしていったことになるのでしょうか。


  • 浜田:そもそも自閉の人たちの行動を、どういう風に整理すればこちらにも理解ができるのかということですね。そのころ考え始めたのはこういうことです。人には身体というのがあって、それは他者と別々の、本源的に個別的なものであらざるを得ないと同時に、他方で身体は人に見えますから、すでに表現者として存在していると。個別的なんだけど、人に見られているということで共同的でならざるを得ない。その共同のありかたをどう理解したらいいかが問題になります。それを考えるための出発点として、人はco-actionのような形で相手と同じ形をとるということをやってしまうという現実がある。そして同じ形をとるだけではなくて、たとえば相手の目を見れば、見ているだけではなくて見られているといわざるを得ない形で相手の能動的な主体をそこに見ている。

    ピアジェは相手を見るという能動性でしか人の認識の発生を考えていないが、人は見ている者から見られるという形で、能動=受動のやりとりをするように身体ができてしまっているわけです。それを相補性と名付けて、身体の持っている共同性を同型性と相補性の組み合わせとして理解したときに、自閉の人の問題のむつかしさは、やっぱり能動=受動のやりとりにあると考えられるようになるわけです。

    私たちの身体は能動=受動のやりとりができるようにできてしまっているけれど、逆に言えば身体の違いでそこがむつかしいということも十分ありうる。そうやってみたときに、たとえば自閉の人が目が合いづらいとか、抱っこしづらいとか、声をかけてもなかなか入らないと言われている部分を、通常備わっている能動=受動の働きになんらかのハンディを持っているということで見ていったときに、その人たちの行動がそれなりに説明できるようになるわけですね。


  • 3)欠如論ではなく形成論的にみること
    浜田:そして自閉的な障がいを、最初からそうあるんじゃなくって、そういう(能動=受動の働きにハンディを持った)形で生まれて周囲の人たちとの関係を生きた時に、どういう症状形成がなされていくのかと、症状形成論として見ることがあっていいんじゃないかと思うわけです。自閉症の人たちを、ある能力の欠如として見る、という話にどうしてもなるんだけれど、自閉の人たちをコミュニケーション能力がないんだという形で位置づけるんじゃなくて、どうやってそのコミュニケーションの障がいが出来上がっていくのかという、その症状形成のプロセスとして描けないかと思ってきたということです。そうするとこだわり行動なども、一定程度理解できるようになるという形で、自分なりにそういう育ちの過程を描くということをやってきたんです。ワロンの手掛かりが結構大きかったと思います。

    今でも大人になった時に人がコミュニケーションができるようになっている、そこが「欠けて」いる、というところに目が向けられて、形成論的に見ていないような気がするんですね。そこを形成論的に見たときに、もっと見えるものが出てくると思う。

    山本:はい。今の問題は特にアスペルガーという障がいをどうとらえるかといった問題に直結してくると思います。アスペルガーの方たちは能動=受動の交替をベースにした視点のやりとりなども可能で、基本的なコミュニケーションは成立するわけです。けれどもやっぱりその視点の在り方に独特に定型とは異なっているところがあるんですね。その部分にいわゆるカナータイプの自閉とつながる質が感じられる。そこで定型社会の中でいろいろな軋轢が生まれ、困難に直面されるわけです。

    でもそれは前提として生まれながらに持っていたある条件をもとに、その後の形成過程の中で独特の人間観や世界観を形作っていった結果なんだと思います。そうやって形成されたアスペルガー的なコミュニケーションのあり方と、定型が自分の持って生まれた前提をもとに形成したそれとの間でディスコミュニケーションが発生する中で、いろんないわゆる「障がい」と言われる現象が生み出されていく。そういう視点で分析することがすごく大事なんだろうと思えるわけです。


  • ■ 浜田 寿美男(はまだ すみお)

    1947年、香川県の小豆島に生まれる。京大文学部、同大学院、花園大学教授、奈良女子大学教授を経て、同大学名誉教授。立命館大学教授。発達心理学を専門とし、自然科学的に外から記述する心理学の限界を問題として、具体的な生活世界の内に「渦中に生きる」人間の在り方を深く問い続け、自閉症理解にも通じる独自の視点を切り開く。同じ視点から虚偽自白や障がい児の目撃証言理解など、供述分析の問題に日本の心理学者として初めて取り組み、法と心理学会の初代理事長も務め、日本の法心理学の開拓者でもある。2019年より発達支援研究所客員研究員。


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