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【特別インタビュー】「形成論から考える発達障がい」③(浜田寿美男先生)

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浜田寿美男(客員研究員・奈良女子大学名誉教授)
聞き手:山本登志哉(発達支援研究所 所長)

人の心理現象を「外側」から「客観的」に理解するのではなく、状況の中に巻き込まれてもがきつつ生きている生身の人間の心理的な世界を「渦中の視点」から描く、という大事な議論を続けてこられた浜田寿美男先生に、その視点から発達心理学を考え、また発達障がいを考える視点についてお話を伺いました。

  • 浜田:そうですね。欠如論ではなく、形成論として見るという発想は、当然必要なことなんですよね。時間的な経過の中で欠如の状態を生きる。そこには当然変化もあるわけですよね。昔は哲学との関係もあって形成論的な見方はそれなりに強かったのが、今のDSMのように外的な症状を記述する、そしてその関係を見るという発想には形成論が欠けているという気がするんです。

    山本:結局欠如論のように「欠けている」という見方で見てしまうと、その人自身が主体的に生きて、模索しながら新しいものを作って生きていくという、その姿が見えなくなってしまうわけですよね。

    浜田:そうそう、そうです。

    山本:そうすると主体と主体の共生の関係として、定型発達者と発達障がい者の間の関係を考えることができなくなってしまう。

    浜田:たとえば感覚過敏ということがよく言われますけれど、感覚過敏というのを、単に個人の感覚が過敏であるといった形で記述していいのか、それとも、感覚過敏が出てくるような症状形成を考えなければならないのかということはやっぱりあると思っています。あるいは、知覚レベルでも私たちは多くの刺激の中から特定の刺激(図)を取り出してほかの刺激(地)を抑制して認識するという、図地分節ということを普通にやっているわけですが、なんでそういうことができるようになるかというと、その分節の仕方を共同的に作り上げているところがあるんじゃないかと。図は個人の図ではなくて、共同の図なんですよね。感覚過敏も個人の感覚器官の問題としてだけとらえるという発想はちょっと違うんじゃないかと思うわけです。むしろ形成論としてとらえられないだろうかと。


  • 山本:図の認識も共同的に周囲と調整しながら形成されるのだけれど、自閉系の方はその調整過程に独特の形や困難があるために、定型と共有した図地の世界が成立しにくいということがあるんじゃないかと思います。そして療育の問題はまさに形成途上との付き合いの問題ですから、おっしゃるように形成論的に問題を見ることが特に重要になるのではないかと思えるんです。今日はお忙しいところ、貴重なお話をどうもありがとうございました。

    <インタビュー終わり>


  • (浜田先生へのインタビューを終えて)

    浜田先生は自閉症の青年を自分のゼミに10年間「学生」として受け入れるなど、書物の「知識」からではなく、現実に生きている発達障がい者との交流の体験を足場に、「自閉症とは何か」ということを考え続け、その視点から発達心理学や心理学全般を根本から見直すことを続けてこられています。そのスタンスはもう一つの大事な研究対象である「虚偽自白」の分析にもつながるものでもあり、現在の中心的なお仕事はこの裁判に関する供述分析です。帝銀事件・狭山事件・袴田事件・甲山事件など、日本の重要な冤罪または冤罪が強く疑われる事件の鑑定を次々に行われ、日本の供述分析を独自の視点から切り拓いてこられた開拓者でもあります。

    他方、乳児から大人に至るまで、大学院生時代からピアジェの「知能の誕生」やウェルナー=カプランの「シンボルの形成」、ワロンの「身体・自我・社会」(論文集)、ハーローの「愛の成り立ち」など、発達心理学を中心に重要な心理学関係の著作を邦訳をされてきたことでも有名です。

    耳慣れない専門用語を使うことなく、日常の些細に見える事例を取り上げながら平易な言葉で語られるその発達論は、一見わかりやすそうでもありますが、そのことの意味をしっかりとらえようとすると、恐ろしいほどに深い洞察の世界に引き込まれ、いつの間にかこれまでの心理学が見落としてきている大きな、大事な世界にいざなわれてしまっていることに気づきます。それは私たちが「常識」にとらわれて、いつも見ているのに見過ごしてしまっている世界です。その世界に入り込むことなしに、発達障がいの問題を十分に理解することはむつかしいとも言えます。

    なお、浜田先生には動画でさらに詳しく自閉症論を語っていただきました。自閉症理解にとても重要な議論が展開されていると思いますので、ぜひご覧ください。


     

  • ■ 浜田 寿美男(はまだ すみお)

    1947年、香川県の小豆島に生まれる。京大文学部、同大学院、花園大学教授、奈良女子大学教授を経て、同大学名誉教授。立命館大学教授。発達心理学を専門とし、自然科学的に外から記述する心理学の限界を問題として、具体的な生活世界の内に「渦中に生きる」人間の在り方を深く問い続け、自閉症理解にも通じる独自の視点を切り開く。同じ視点から虚偽自白や障がい児の目撃証言理解など、供述分析の問題に日本の心理学者として初めて取り組み、法と心理学会の初代理事長も務め、日本の法心理学の開拓者でもある。2019年より発達支援研究所客員研究員。


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