【ヒオ先生の面白教育実践】④ ごっこ遊び ~ チクり合い(前編)
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ヒオ先生
A児とB児はライバル関係にある特別支援学級の四年生。A児は中度の知的障がい、B児は軽度の知的障がい、ふたりとも、ASD(自閉症スペクトラム障がい)の傾向があります。
ある日、B児はA児のランドセルの中に、数週間前の学級行事で配られたお菓子が入っていることを発見!
「お菓子は学校に持ってきちゃいけないんだよ!」
B児はこのことを、みんなの前で何度も指摘。A児をしつこく、いじっていました。
「ねぇ、しつこい! Aさんがイヤがってるんだから、やめなよ」
私はB児に軽く注意を促しました。
B児はA児をいじり続けます。
はじめA児はB児の名前を叫びながら、不快感を訴えていました。
でも、B児のあまりのしつこさにイライラ...ついに、A児はB児のほうへ向かって行こうとしました。
私は暴力の可能性を予測して、A児を止めるために、A児の腕を強く引っ張りました。
そのときの様子です。
……・・・………・・・………・・・………
A児:せんせい、いたい!
私 :あっ、ごめん。
Bさんをたたくのかなって心配した...
A児:わるい、せんせい!
私 :痛かったね。ごめんなさい!
A児:せんせい、いた~い!
私 :(苦笑いして)はい、はい、すみません、すみません、すみません...
A児 :(笑顔になって)もう...ママに、でんわしようっと...
(携帯電話として使っている「値札」をポケットから取り出し、電話するふりをして)
ピッピッピッ...
私 :(笑いながら)うわ~、やめて!
A児:もしもし、ママ、せんせい、わるい(ことをしている)!
私 :あぁ~っ、Aさん、わるい!!!
……・・・………・・・………・・・………
A児は私をこのようにいじった後、満足げに、微笑んでいました。
私も大満足です!
イライラを感じたときでも、A児は、親に「チクり合う」という私との「ごっこ遊び」をはじめる心のゆとりを持てたこと。
そして、ネガティブな感情や行動を統制することができたことにA児の大きな成長を感じたからです。
「チクり合う」儀式は、子ども発のユーモアに、私が乗るという形でスタートしました。
たとえば、次のような失敗を私がします。
すると、A児は携帯電話をかけるふりをして、母親にチクる演技をしてきました。
……・・・………・・・………・・・………
A児:もう、ママにでんわしようっと!
(値札を携帯電話に見立てて、ボタンを押しながら)ピッピッピッ...
ママ、おこる! ママ、こわい(よ)!」
私 :(笑顔で)えぇ~、こまる~!
……・・・………・・・………・・・………私が大げさなリアクションをすればするほど、A児は喜びます。
さて、A児は実際、母親に言いつけることをほとんどしません。というのも、A児はこのことで、過去にイヤな思いをしているのです。
「ある先生が自分にひどいことをした!」
以前、A児は母親にこのように伝えました。すると、母親は我が子の言い分だけを信じて、学校への不信感を募らせてしまいました。その結果、A児には学校に行かせてもらえない時期があったそうです。
「自分のネガティブ体験を笑いに変えて、たくましく生き抜こうとするA児はすごい!」
私は今のA児のありかたをリスペクトしています!
(個人ベーシック閲覧期間:2020年4月25日まで)
【執筆者紹介】ヒオ先生
「学校教育で、よりよい社会を創る」という野心を持った公立小学校の教師です。通常学級、日本語学級、特別支援学級を担当してきました。専門は異文化間マネジメント。小学校の前は、大学や企業で講師をしていました。
好奇心が強く、いろんな国の人と関わったり、外国へ行ったり、そこで暮らしたりすることが大好きな地球人。中2までに、海外を含めて7回学校を変わった「転校のスペシャリスト」でもあります。このイラストは偽物っぽいかも。実際の本人は海外に行くと多くの国で、「現地の人」と思ってもらえる特技を持っています。「ヒオ」は、ポルトガル語で「川」という意味。自分の理想の生き方「上善は水のごとし」につながる言葉なので気に入っています。
ふつう、A児が母親に言いつけると言い出したら、大抵はその行動に対していい気持ちはしないように思います。それをA児の思いを理解して、気持ちに寄り添うヒオ先生は、純粋にすごいなあと私は思いました。
もちろん、辛い出来事を楽しい遊びに変えてしまうA児もすごいのですが、それを行うには良き理解者が必要だと考えます。
お互いの努力と優しさが、このような良い結果を生み出したのだと思います。