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【アメリカの発達障がい事情】自閉症サマーキャンプ篇⑦
キャンプ・ロイヤルを覗いてみませんか?(1)

この記事を読むには8分ほどのお時間がかかります

下川 政洋(しもかわ まさひろ)

前回は少し、自閉症キャンプから話が離れてしまいました。そこで、少し順番が逆になってしまった感がありますが、あらためて筆者の参加した自閉症キャンプの概要をご説明したいと思います。

  • 名前は「Autism Society of North Carolina, Camp Royall」と言います。ここでは便宜上、「キャンプ・ロイヤル」と呼ばせていただきます。ノースカロライナ州のチャペルヒル市というところにあります。ASD(自閉症スペクトラム障がい)の人を対象にしたキャンプ場としては世界最大であり、また、最も歴史のある施設です。以下は、ユーチューブですが、キャンプ・ロイヤルのイメージが分かると思いますので、ご興味のある方はどうぞご覧になってください。2本あります。

    Camp Royall: The Best Week Ever

    Rico’s Story: A Dream Come True


  • (ロゴマークをご覧ください。パズルは自閉症のシンボル、謎であるという意味です。それでいて、ふたつと同じピースはありません。同じ自閉症と言っても千差万別であることを意味します。加えて言うと、特徴さえ理解すれば、他者と繋がることが可能であることも示しています。また、上記のパズルは、ノースカロライナ州の形を模しています。TEACCHプログラムが地域に結びついています。療育活動が郷土愛に根付くのは、面白いですね。)

    まずは、施設のご紹介から始めます。施設は、大雑把に言って、体育館、プール、食堂、ロッジ(宿泊施設)、人工池、野外パーティー施設、運動グラウンド、工作施設などからなります。



  • (キャンプ・ロイヤルへようこそ!!!)



  • (体育館)


  • (みんなが大好きだったプール)



  • (食堂と定番のチキンナゲット)



  • (ロッジ)



  • (野外パーティー施設とグラウンド)

  • ここに参加する人は、みな自閉症の診断を受けた人で、キャンプに参加するので、キャンパーと呼びます。ここの利用法には、基本的に四つの種類があります。サマーキャンプ、スプリングキャンプ、放課後キャンプ、家族と過ごせる週末キャンプで、1年を通して活動しています。

    その中でも最も活気を帯びるのが、筆者の参加したサマーキャンプだそうです。だいたい、500人の申込みがあり、その内の400人が書類選考によって受け入れられます。そして、費用は1週間のお泊まりで1,750ドル(2019年6月の時点、以下同)、お泊まりはできないが1週間通いたいというときは650ドルになります。けっして、安くはありません。しかし、ノースカロライナ自閉症協会からの奨学金制度もありますので、中にはこの奨学金で利用する人もいます。

    宿泊施設の関係がありますので、一度に泊まれるキャンパーは、32人〜35人です。それに、通いのキャンパーが10人前後加わります。これを11週間で回転させていくと、ひと夏で約450人くらいの利用者を受け入れる施設ということになります。つまり、筆者は、短期間で400人くらいのASDの方と接する機会に恵まれました。(ちなみに、年間で1,200〜1,500人の人がキャンプに参加するそうです)。

    そして、何よりもこのキャンプの贅沢なところは(費用が高くなってしまう原因でもありますが)、ひとりのキャンパーにひとりのインストラクターが専属でつくことです。そして、インストラクターも、基本的にはお泊まりになります。

    ここで、少しアメリカ社会におけるキャンプのニュアンスをご説明したいと思います。アメリカの義務教育は、概して夏休みが長いです。だいたい、6月の半ばから8月いっぱいが休みになります。ほぼ11週間です。これには、歴史的な理由があります。まだ、アメリカの主要な産業が農業であったころ、子どもたちが農繁期に家のお手伝いをするためのものでした。しかし、現代アメリカでは農業人口が激減しておりますので、これでは現実に合わないわけです。たとえば、共働きのご家庭であれば、夏休み期間中も子どもを預かってもらえるところがないと、生活に支障が生じてしまいます。そこで、このブランクを埋めるために生まれてきたのがサマーキャンプということになります。ですので、現代アメリカでは、夏になるとキャンプに行くことが、ほぼ常識的な習慣になっています。

    さまざまな主催者がいます。NPOだったり、父兄の方だったり、大学であったり、スポーツクラブであったり、学校の先生の休み期間中のアルバイトであったりです。

    キャンプの目的もさまざまです。いわゆる普通のキャンプから、ロボット作りだったり、サッカーだったり、数学だったり、写真撮影だったり、音楽だったりです。子ども版カルチャーセンターだと思っていただければいいと思います。

    しかし、これがASDの人にとってはひと苦労ということになってしまいます。通常は、大体小学校三年生くらいになると、仲のいいお友だちの家にお泊まりに行ったりして、その子と特別に仲良くなったり、保護者同士が仲良くなったりすると思います。しかし、ASDの子にお泊まりは、とても困難なことが多いのです。なにせ、社会的な活動ですから。同様に、サマーキャンプに参加するのも困難なのです。だいたい、ASDの人を受け入れてくれるところが少ない。でも、ご近所では、「うちの子は、XXのサマーキャンプに参加しました」「Aちゃんは、どこのサマーキャンプに行くの?」「誰とそのキャンプに行ったの?」なんて会話が頻繁に行われます。自分だけ行っていないとは、言いづらいものがあります。ご両親も何か感じるところはあるでしょうし、本人もおいてけぼり感を感じるのかもしれません。

    そんな思いが動機となって作られたのが、このキャンプ・ロイヤルです。1972年、およそ今から50年前です。ですから、オーナーはノースカロライナ自閉症協会、つまり、ASDのお子さんをもつご父兄方ということになります。今では、ASDのお子さんでも、キャンプ・ロイヤルがあるから、9月になって学校が始まったとき、「僕もキャンプに行ってきたよ」と言えるわけです。


  • (1週間のお泊まり。ザクッとしたイメージ)

  • そして、ASDのお子さんとご家族にとって、お泊まりができたということは、とても意味をもつようです。その理由のひとつが、ほとんどの親は、この子の世話は自分にしかできないと信じているからです。自分の子どもに障がいがなくても、子どもをいちばん知っているのは自分だと思う親は多いと思います。それが、障がい者の親になると、さらにその傾向が強くなると思われます。でも、キャンプ・ロイヤルではお世話ができてしまいます。親がいなくても生活ができてしまう経験、これはご両親の常識を十分揺るがせます。あるお母さんが言っておりました。「(キャンプ・ロイヤルのスタッフは)私より、世話がうまい!」では、どうして、キャンプ・ロイヤルのスタッフは世話がうまいのでしょうか?サマーキャンプ中、私は、一度として、大きな問題を目撃したことがありません。キャンプ・ロイヤルのサマーキャンプは、巨大で複雑な機械時計のようなものにもかかわらずです。一度動き始めたら、24時間止まりません。体育館、プール、食堂、ロッジ(宿泊施設)、人工池、野外パーティー施設、運動グラウンド、工作施設が同時に動き始めます。キャンパーもインストラクターも、個々のスケジュールをもっています。そして、全体と調整がされています。個々のスケジュールとキャンプ全体のスケジュールがうまく調整されています。


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  • 【執筆者紹介】下川 政洋(しもかわ まさひろ)

    (発達支援研究所 客員研究員)

    51才です。国際医療福祉大学で主に家族療法を学びました(研修員)。偶然ですが、今年は個人的な事情で、ノースカロライナ州のチャペルヒル市に滞在することが多いです。そして、ここで、自閉症スペクトラムの援助方法であるティーチ・プログラムに出会いました。こちらで感じるのは、発達障がいの人を援助する現場の「空気」が違うということです。「これってなんなんだろう?」と不思議に感じています。言語化がとても難しいです。この辺りの感覚を、攫んで帰りたいと思っています。家族療法もティーチ・プログラムも初学者でございますが、よろしくお願いします。

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