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【アメリカの発達障がい事情】④ 接点:Connection

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下川 政洋(しもかわ まさひろ)

今回は、「接点(connection)」についてお話をさせていただきます。と言いますのは、ある友人と知り合ったことで、「接点」という言葉がTEACCHを学習するにあたっての、私のキーワードになっていたからです。この友人は、まったくの偶然ですが、ノースカロライナ州自閉症協会が所有している広大なキャンプ施設の責任者をしています。20年以上TEACCHに関わっているそうです。これはよい機会だと思いましたので、「あなたの仕事の魅力は何ですか?」と聞いてみました。返事は「自閉症スペクトラムの人と接点(connection)を感じることだ」というものでした。こんな会話がありましたので、この「接点」という言葉が気になっていました。

  • ところで、この「接点」のお話をする前に、TEACCH理解に重要な「共同注意(Joint Attention)」と「スケジュール」についてお話をします。もちろん、個人差があるのですが、ここでは話を単純にするために、典型的なタイプということで話を進めます。

    まずは、「共同注意(Joint Attention)」についてです。これは要するに、他の人が何に注意を向けているのかに気付くことです。一般に、自閉症スペクトラムの人は、これが苦手と言われています。

    TEACCHトレーニング中に、興味深いことがありました。訓練生のひとりが自閉症のお子さんを相手に「私は何を見たかな?( I Spy Game)」ゲームをしました。ひとりが「私は、〜を見た」と言うと、もう一方が「それは、青ですか?」「四角ですか?」などの質問をくり返し、何を見たのか当てるゲームです。訓練生が「私が見たのは〜( ( I Spy ~)」と言ったときに、自閉の子どもは訓練生の視線がどこに向いているのか見ようとしません。それとは逆に、自閉の子が「私が見たのは〜( I Spy ~)」と言ったときに、訓練生は子どもの視線を盗み見ようします。つまり、「私は何を見たかな?( I Spy Game)」ゲームで、自閉の子はズルができないんですね。これが、「共同注意(Joint Attention)」の不在です。

    次に、「スケジュール」についてです。一般に自閉症スペクトラムの人は、時間の見通しをたてるのが苦手だと言われます。たとえば、「ちょっと、待ってて」と言うと、永遠に待っていたりします。あるいは、「今度にしよう」と言ったとします。しかし、自閉症の人にとって「今度」とは、「永遠」を意味します。ある意味で、「今」と「ここ」を超えることが難しいのかもしれません。そのために、未来に対する強い不安を持っていることが多いそうです。いわば、「次の状況が予期できない不安」です。そこでTEAACHでは、つねに次の行動を視覚で確認できるさまざまなリスト群を明示します。

  • たとえば、「スケジュール・リスト」。これは、1週間の予定からその日の予定まで、複数の種類が用意されていました。それから、「やることリスト(To Do List )」。これは作業マニュアルのようなもので、ひとつの課題をどの順番で行ったらよいかが示されています。


  • (Andrewさんの今日の
    スケジュール)

  • (作業の手順を明示する
    リスト)
  • 次に、「自由選択リスト(Select Board)」。このリストもTEACCHの特徴だと思いますが、自閉症の人は、たとえば自由時間に「自由にしていいですよ」と伝えると、「何をしていいか分からない」になることが多いそうです。そこで、あらかじめ自由時間にできそうなことをリストにして、用意しておくそうです。自閉症の人は、これらのリスト群をいつでも目で確認することで、「次の状況が予期できない不安」から救われるそうです。

  • ここで、話を「接点(connection)」に戻したいと思います。ある日私は、比較的重度の自閉スペクトラムと思われる、Aさん( 20 )という女性と一緒にランチを食べることになりました。しかし、私はけっして自閉症の専門家ではありませんので、少し緊張しました。何よりも、一緒に座って食べていてまったく会話がありません。カウンセリングの面談室でも沈黙になることはありましたが、それとはちょっと違いました。面談室での沈黙でも言葉がありませんが、何かしらの非言語のやり取りを感じます。しかし、このランチでは、まったく私がそこに存在していないようでした。先に、「接点(connection)」がキーワードと書きましたが、これは「非接点 (dis-connection)」の感覚だと思いました。

    ところで、50才のおじさんと20才の女性が一緒にランチを食べていて、会話が一切ないというのも、相手に失礼になるのではないかとだんだん心配になってきました。これが、自閉の人と一緒にいる不安なのかなと考えました。そしてしばらく、果たして「話しかけるべきか?」「話しかけない方がいいか?」と考えておりました。周りの訓練生を見ていると、それぞれ自分が担当しているお子さんと関わりを持とうとして、何かしら話しかけていました。そこで思い切って、声をかけてみることにしました。資料により、Aさんがバスケットボールと野球が好きであると知っていたので、「バスケットボールは好きですか?」と聞いてみました。返事は、聞こえないくらい小さな声で「うん」で、少し不機嫌そうでした。このときに「話さないのは失礼ではない」と感じましたので、ここでわれわれの会話は終わりました。

    それから午後になって、私はこの女性にお掃除のしかたを教える課題をしました。そうすると例によってTEACCHでは、やる事リスト(To Do List )、作業マニュアルを作って手順を教授します。このときにAさんが、私の説明に注意を向けていることに気付きました。苦手であるはずの、「共同注意(Joint Attention)」が成立しているのです。これが意外でした。そして、これが、私の友人が言っていた「自閉症スペクトラムの人と接点(connection)を感じることだ」かもしれないと思いました。

    つまり、自閉症スペクトラムの人は、「次の状況が予期できない不安」を持っている。だから、次の行動を視覚で確認できるリストは、自閉の人と定型発達の人の接点(connection)を可能にするのではないでしょうか。「スケジュール・リスト」や「やることリスト(To Do List )」や「自由選択リスト(Select Board)」とは、共同注意(Joint Attention)なのではないでしょうか。こんなことを考えてから、自閉の人と一緒にいることの不安が軽くなるのを感じました。


  • (Aさんとランチを一緒に食べた食堂。メニューは、トマトソースのペンネとじゃがいもの
    グリル。少し味が濃くて作りおき感がありましたが、美味しかったです。)
  • 今回は、独特の認知特性を持つ自閉の人と、自閉ではない人がどうやったら繋がることができるのかについて書かせていただきましたが、次回は親御さんについて書かせていただきます。自分の子どもと繋がることが難しいとは、どういうことなのでしょうか?私は、この親御さんたちから多くを学んだ気がしました。

  • 【執筆者紹介】下川 政洋(しもかわ まさひろ)

    (発達支援研究所 客員研究員)

    51才です。臨床心理学の勉強は、20年の社会人経験の後に始めました。肩書きとしては公認心理師で、国際医療福祉大学で主に家族療法を学びました(研修員)。偶然ですが、今年は家族の事情で、ノースカロライナ州のチャペルヒル市に滞在することが多いです。そして、ここで、自閉症スペクトラムの援助方法であるティーチ・プログラムに出会いました。こちらで感じるのは、発達障がいの人を援助する現場の「空気」が違うということです。「これってなんなんだろう?」と不思議に感じています。言語化がとても難しいです。この辺りの感覚を、攫んで帰りたいと思っています。家族療法もティーチ・プログラムも初学者でございますが、よろしくお願いします。

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  1. まー まー

     「スケジュール」での“ちょっと待って”が永遠を意味してしまうというのには驚きました。自然にできると思われる時間の感覚ができないことが、どんな感覚なのかまではわかりませんが、筆者が言うように大きな不安なのだと知れたことが新しい発見でした。
     リストによって「共同注意」が起こり、接点(connection)ができることから、接点ができる一つのきっかけとして「共同注意」があるのかなと思いました。同じものを見たり、同じ感情や考えを共有するとき、お互いの心がつながったと感じるのかと考えました。