発達支援交流サイト はつけんラボ

                 お問合せ   会員登録

はつけんカフェ

【アンフェアを生きる】⑤ 在日三世

この記事を読むには6分ほどのお時間がかかります

北村 碩子(きたむら ひろこ)

日韓関係が悪化している。そんな中、いちばん被害を受けるのは誰だろうか。

それは、日本に暮らす在日コリアンの方々である。これまでにも彼らは、日韓関係が悪化するたび、いわれなき中傷に晒(さら)されてきた。北朝鮮のミサイル問題が表面化したときは、チマチョゴリを着た朝鮮学校の生徒が刃物で切りつけられた。拉致問題が大きくニュースで取り上げられたときは、朝鮮学校にいる小学生たちの目の前で、ここに書くのも憚(はばか)られる差別用語が繰り出され、子どもたちが脅された。

  • そのような、あまりに矛先を間違えたヘイトデモに対し、在日のあるタレントは「こういう日韓間の衝突が起こって、日本で韓国のことが悪く言われるたび、私はただ早くこんな風潮は無くなってくれと身を小さくして思うしかない」と、苦しい心の内を明かしていた。

    その言葉を聞いたとき、「ものすごくよく分かる」と言いたくなった。少年が幼い子どもの性器を傷つけ、高所から転落死させ、のちに少年広汎性発達障がいだと判明したのは、私が中学生のときだった。その後、ネットで「同障がいの人は犯罪者予備軍」であると書き込まれて流言となって飛び交い、雑誌のマンガに、ろくに障がいの理解もないまま「発達障がいを盾に減刑を求める殺人者の身勝手さ」を描く漫画が掲載される…。そんな風潮の中、私は子どもながらにひたすら息を潜めるしかなかったのである。

    しかし、マジョリティとは身勝手である。こちらは「やめてくれ、矛先を間違ってるぞ」と声を上げれば、「こいつはマイノリティだ」と気づかれ、ますます精神的被害を受けることを恐れて息を潜めている。なのにそれを、「マイノリティ本人が声を上げない。つまり本人たちもあまり気にしてないってことじゃないか、自分たちは間違っていない」と解釈するのである。そして、「そんなに気になるならマイノリティ本人がもっと反対活動をすればいいのに」などと無責任にのたまう。こちらはただでさえ精神を痛めつけられている上、声を上げるために必要な労力を用意するのも困難なだけである。というか、マイノリティへの攻撃が問題になるのは、マイノリティではなく、それをたたくマジョリティの問題なのである。なのに自分たちは意識改革をせず、痛めつけられ傷ついている側に「そちらが頑張れ」というのは、おかしくないだろうか。

    しかし今回、そのような傷をはねのけ、韓国への風当たりが強まる日本社会に異を唱える、勇気ある在日三世の女性が登場した。「今まで以上に命の危機を感じている。個人情報が簡単に漏れてしまう時代だから、こんなことをここで言ったら、連れ出されて殺されるかもしれない。だけどここで私が声を上げなければ、差別意識は変わらない。お願いです、このスピーチを聞いた日本人のみなさん、周りの人が差別発言をしたら、ひと言やめようよと言ってください」と、震える手でマイクを握った彼女は訴えた。

    だが、それに対する日本人の返しはありえないものだった。「日本人が、韓国人と見れば殺しにかかるような野蛮な民族だと思ってるのか。不愉快だ」「日本に文句を言うなら、自分の祖国の政策のやりかたを直す運動をしろ。本当に、自分の権利ばかり主張して、義務は果たさないんだな、これだから在日は」「日本に文句を言うなら祖国へ帰れ」。

    同じ日本人として恥ずかしくなった。マイノリティが日々晒(さら)されている差別を知ろうともせず、無意識に差別をしている側の自分たちが悪しざまに言われているようで気分が悪いからやめろとは、何さまか。前述したように、以前にも国家間の問題なのに、何の罪もない在日の子どもが暴言を吐かれ、あまつさえ刃傷沙汰になった事例まであるのだ。むしろ身の危険を感じないほうが不自然だろう。そして、「国と国の問題について、民族や個人を差別しない」という至極(しごく)当然のことを「権利ばかり主張するな」と抑えにかかるなんて、最初の「日本人が韓国人と見れば云々(うんぬん)」という主張と矛盾しているとしか思えない。わざわざ「自分たちは国の政策と個人を同一視して差別する民族です」と自己紹介しているようなものではないか。そして、そんな当たり前のことを訴えた人に対して、ルーツが他国にあるからという理由で国に帰れと暴言を吐くとは。突き詰めればおかしなことだらけだ。

    そして、発達障がい者への同一視、差別の仕かたにも同じものを感じ、在日の人々に強く共感せずにはいられない。私たちも、「発達障がい者が犯罪を起こしたからと言って、十把一絡げ(じっぱひとからげ)にしないでくれ」という当然の主張をしただけで、まさに今在日の人々が言われているようなことを言われて封殺される経験をしている。

    そのくせマジョリティは、自分たちが「マイノリティの多くはあなたたちマジョリティから差別され、辛い思いをした経験がある」と言われれば、自分たちの言動は棚に上げて、「われわれを全員が全員差別主義者だと同一視するな。これだからマイノリティは被害妄想が激しい」と過剰なまでにたたくのだ。コントかと思うくらい、矛盾しているのである。

  • 【執筆者紹介】北村 碩子(きたむら ひろこ)
    はじめまして。生まれも育ちもずっと香川です。去年の夏から、障害児通所施設の指導員として活躍させていただいております。性格はよく天然と言われます。発達障がいの当事者として、日々関わらせていただいている利用者様からたくさんのことを学んでいます。
    趣味…読書、約束のネバーランド、物書き、犬など。ピアノ弾けますので、お子様のリクエストたまわれます。

    「北村 碩子」執筆記事一覧


タグ

RSS

コメント欄

 投稿はありません

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。