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【ヒオ先生の面白教育実践】② ごっこ遊び ~ ドラゴンボール

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ヒオ先生

 
特別支援学級でのひとコマ。
 

  • ……・・・………・・・………・・・………

  • B児  : 先生、死ね~!!! 
        (ドラゴンボールの「かめはめ波」ジェスチャーをして)か~め~は~め~波っ!
    私  : (後ろに少し押し飛ばされるふりをして)はぁ? 全然だいじょうぶだし!
        (B児と同じジェスチャーをして)ドゥ~ ダ~ン!
    B児  : なんだとぉ~!!?
        (悟空の違う技のジェスチャーをして)お前を破壊する! 消えろ~!!!ギュ~ン、バ~ン!
    私  : (やられるふりをして)うっ...
    B児  : (満足そうな顔)


  • 私  :  あの~、先生が消えると、Bは学校で勉強ができないんだけど?
    B児 : だいじょうぶだし!
    ……・・・………・・・………・・・………

  • このようなB児とのやりとりが、多いときは1日に4回あります。
     
    かなりの回数、私は死んでいます。
     
    でも、楽しく、死んでいます!
     
    B児も、やりとりを見ているほかの子どもたちも、ニコニコの笑顔。何だか、とってもうれしそうです。
     
    五年生のB児は、軽度の知的障がいとASD(自閉症スペクトラム障がい)の傾向を持っています。
     
    不登校の兆候もあって、朝、「学校に行きたくない!」と言って、家から出たがらないときがありました。とくに、月曜日や長期休みの後、B児は休んでいました。
     
    B児は、親にも、私にも、学校に行きたくない理由をなかなか伝えることができませんでした。
     
    こんなときは、遊び感覚で、予想できる理由を選択肢にしたクイズ。答えをB児に選んでもらいます。
     
     「ジャジャン、Bさんに質問です! 学校に行きたくなかった理由は何でしょう? 

     ① 先生が嫌なことをした ② 友だちが嫌なことをした ③ 嫌な授業がある
     ④ 給食   ⑤ 宿題  ⑥ 家で嫌なことがあった ⑥ その他」
     
    不登校の場合、学校を嫌がる理由が分からないこともあります。でも、B児の場合、これらの選択肢をきっかけに、理由を表現することができました。
     
    「今日は6時間(授業)だからイヤ!」という私が想像していなかった理由を言ったこともあります。
     
    ほかにもB児が表現しにくい、学校に行きたくない理由があると考えています。
     
    学校でのB児は、いろいろなことに気づき、みんなを助け、ネガティブなことをほとんど言わない、優しい、いい子。
     
    私たち教師は、特別支援学級のリーダーとしてのB児に多くを期待してしまいます。ついつい、B児にいろいろな頼みごとをしてしまいがちです。
     
    B児は、理想の自分を演じるのに疲れ、いろんなことが心の中でぐちゃぐちゃに...
     
    「学校も、先生も、友だちも、すべてが嫌」という気持ちになってしまうのかもしれません。
     
    「先生、死ね~!!! 消えろ~!!!」

    これは、ある意味で、いろんな抑圧に対して、解放を求めるB児の心の叫び?
     
    と考えたりもします。
     
    そして、ドラゴンボールごっこ遊びは、自分のストレスを発散し、自分の心を守るために、B児がみずから編み出した「生き抜く知恵」であるような気がしています。
     
    だから、私はB児のごっこ遊びに、いつでも本気で参加して盛り上げるように心がけています。
     
    そして、これがとっても大切な教育活動だと信じています。
     
    授業以上に!(笑)
     
    みずからのネガティブ感情をユーモアで適切に表現できるようになる。
     
    そうすれば、みずからの感情や行動を統制する力、折れない心(レジリエンス)、寛容さなど、「学びに向かう力、人間性」に関する資質・能力を伸ばすことができるから。

  •  
    さて、B児はゲーム依存症の傾向も少しあって、寝る時間が遅くなることがよくあります。
     
    このことも、不登校の兆候とつながっていると考えられます。
     
    ゲーム依存症に関しては、学級で日常的に話題にしているので、B児もゲームのやりすぎはよくないと感じています。
     
    ここで再び、ドラゴンボールの出番。


  • ……・・・………・・・………・・・………
    私 :  ねぇ、昨日は11時までに寝たの? それとも、「悟空ブラック」だったの?
    B児 : うん、「ブラック」! ゲームで寝るのが、おそくなった。
    私 :  やばっ! う~ん...でも、そういうときも、あるね。
    B児 : うん
    ……・・・………・・・………・・・………
     
    ドラゴンボールには、悟空の敵として、「悟空ブラック」という悟空の悪い心だけが極端に表れたキャラクターが登場します。
     
    B児は、人間のポジティブな面を「悟空」、ネガティブな面を「悟空ブラック」として、人間の両面性を何となく理解しています。
     
    この知識をもとに、人間理解、自己理解を深め、自己受容を促し、自分を客観視する力(メタ認知力)を伸ばしていきたいと考えました。
     
    またまた、育てたい力を欲張っています。
     
    人間は誰でも、よい心と悪い心(人間の弱さ)の両面を持っている。それが普通で自然であること。
     
    だから、「がんばれない、優等生ではない、弱い自分がいてもいい」ということ。
     
    いつも「つりあい」を意識して、今この瞬間、自分の心がどちらに傾いているかを理解すること。
     
    こうした理解力や態度を伸ばすことで、みずからの感情や行動を統制する力も高めていきたいと思っています。
     
    B児がストレスを感じそうなときは、次のような声掛けをします。
     
    ……・・・………・・・………・・・………
    私 :  ねぇ、今「ブラック」になりそう?
    B児 : そうだぁ~! 死ね~!!! ギュ~ン、バ~ン!
    私 :  あれ? 先生は、Bに悪いことしてないのに、何で攻撃されるの? 
    B児 : うるさい! 消えろ~!!!(笑)
    ……・・・………・・・………・・・………
     
    ほかにも、思春期と「ブラック」のつながりについても、話をすると、B児は、とても興味を持って話に耳を傾けていました。
     
    大人になるにつれて、ときに社会の理不尽さを感じるであろう子どもたちには、ネガティブな感情を、ユーモアで発散するという「生き抜く知恵」や「折れない心」を育んで(はぐくんで)いってほしいと願っています。
     
    さて、B児は成長しているのでしょうか?
     
    B児は明らかに、ネガティブ感情を自由に表現するようになってきました。
     
    実践を始めてから、約1か月半後、朝の会の健康観察でのやりとり。
     
    ……・・・………・・・………・・・………
    日直 : Aさん?
    A児 : はい、元気です。
    日直 : Bさん?
    B児 : はい、悲しいです。
    私 :  なんで?
    B児 : パパとママがけんかして、パパが家から出ていった...
    私 :  えぇ~っ!!?
    ……・・・………・・・………・・・………
     
    幸い、B児のパパは翌日、戻ってきて、B児も私も安心しましたが。
     
    健康観察で、これまで「はい、元気です」としか言わなかったB児が、「ちょっと、元気です」「ちょっと嫌です」と言うようになりました。
     
    私が理由を聞くと、学級全員の前で堂々と、ときには、つぶやくように理由を話せるようになりました。
     
    B児が両親のけんかの話をしたとき、友だちふたりが自分たちの体験とつなげてB児を思いやる反応をしていました。
     
    悲しい話題の中にも、子どもたちの成長を感じた、心温まる朝の会でした。
     
    また、B児の不登校の兆候は、だんだんと消えていきました。
     
    さらに、ゲームの誘惑に勝って、11時までに寝ることができたという話をB児から何度か聞くこともありました。
     
    これらは、もちろん、前号の記事「納豆大キライ不登校宣言」の実践、私との信頼関係の深まり、家庭やほかの先生方のサポート、本人の努力があったりした成果です。
     
    六年生になったB児とのやりとり。

    ……・・・………・・・………・・・………
    B児 : 先生、大きな消しゴムを買いました!
    私  :  でかっ! で、何を消すの?
    B児 : (大声で) せんせ~い!(笑)
    ……・・・………・・・………・・・………
     
    B児のユーモアのセンスにも、大きな成長を感じた次第です。

  • (個人ベーシック閲覧期間:2019年12月13日まで)

  • 【執筆者紹介】ヒオ先生
    「学校教育で、よりよい社会を創る」という野心を持った公立小学校の教師です。通常学級、日本語学級、特別支援学級を担当してきました。専門は異文化間マネジメント。小学校の前は、大学や企業で講師をしていました。


  • 好奇心が強く、いろんな国の人と関わったり、外国へ行ったり、そこで暮らしたりすることが大好きな地球人。中2までに、海外を含めて7回学校を変わった「転校のスペシャリスト」でもあります。このイラストは偽物っぽいかも。実際の本人は海外に行くと多くの国で、「現地の人」と思ってもらえる特技を持っています。「ヒオ」は、ポルトガル語で「川」という意味。自分の理想の生き方「上善は水のごとし」につながる言葉なので気に入っています。

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