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【当事者が語る発達障がい】当事者の視点から考える療育 ④
定型発達者と発達障がい者の目線の違いについて

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鈴木 領人(すずき りょうと)

一身上の都合により療育という現場から離れ、約半年が経ちました。現在は塾の教室長としてお仕事をさせていただいておりますが、離れてみると別の角度からさまざまなものが見えるようになりました。その中でも、塾と発達支援・放課後等デイサービスでは別ものと当初は考えていましたが(実際は別なのかもしれませんが)、根底にある悩みについては同じかもしれないと思うようになりました。

  • 私の働いている塾では、現在、発達障がいとして認定されている生徒が数名通われています。社長は、「発達障がいについてはよく分からない」と私が入った当初はおっしゃっていました。「よく分からないとはどういうことなのだろう」と少し疑問に思い、私の妻も含めて話をしていると、「いきなりブツブツ独り言を話し出すのは、とても怖い。何を考えているんかが分からないから、何かされそう」と思っていることが原因ということが話の内容から見えてきました。人は理解できないものには恐怖を感じると何かの本で読んだことがありますが、もし、理解ができるのであれば、お互いうまくいくのかもと思い、妻に話すと、「理解はするけど、納得するかは別」と言われ、違いを認め合うということはとても難しいのかもと思う反面、私を認めて働かせていただいていることを踏まえると、双方が能力を認め合うことはできるのでは、と思いました。

    他人とのコミュニケーションをとる上で難しいのが、自分の目線です。どの立場でも自分の目線を認識するのは他人との考えが違うと気が付いたときで、そもそもそれを「考えよう」、まして「直そう」というのは、話している他者への信頼があるとき、または自己肯定感が低いとき、なように感じます。私は、こうやって自分は他人とは違うということを、発達障がいが自分にあるという認知をしたときに、はじめて他者との認識の違いに気が付きました。ただ、その認識の違いはけっして悪いことではなく、「一般論と違うのかも」とつねに比較ができるようになったことで新たな目線を獲得できたと思っています。

    そうした認識の違いというのは、療育の支援の行いかたでも同じでした。最近とある支援事業の指導員から相談を受けまして、その相談内容は「繰り下がりの計算ができなくて、どうやって教えればいいですか」とのことでした。「どうしてもできないんなら電卓でいいのでは」、とお話しすると「保護者の要望が計算や漢字などの学校の授業での要望が強く、この子はペンが好きでペンを並べて使わないと計算ができないんです」とのことでした。

    まずアドバイスさせていただいたのが、この子は計算ができているという認識の違いでした。ペンを並べることでしか、ではなく、ペンを並べるとできる、ということです。その子ができるやりかたでできるようにすること、これがその子の答えに近づけるのではとお話ししました。たとえば、紙にペンの絵を書いて行(おこな)ったり、ほかのものではどうなるのだろう、と行ってみるといい方向に向かえるのかもしれません。

    次に、保護者の要望についてお話しました。私自身が指導員をしているときにも、今現在保護者が問題として抱えていることについて保護者とお話ししたのを覚えています。問題は、当事者が問題として抱えていることなのか、そしてそれを今現在ではなく今後どう向き合えるように未来に繋(つな)げていくか、が大切なのではないでしょうかとお話ししました。目先の問題を解決してもまた同じように問題が発生します。そうではなく、当事者がどういう未来に進みたいか、そのためには何が必要かを考えて、その子らしく生きられるようにすること、これが大切なことではないでしょうか。

    保護者の方もその指導員の方も「その子らしい生きかた」を考えるということについて、「その子が定型発達の方にどうやって合わせていくのか」を行わせることにいつの間にか重点を置いてしまい、当事者の本質を蔑ろ(ないがしろ)にしてしまうことがあります。よく「プラスの視点」でものごとを考えるほうがよいと言われていますが、結果できていないこと(マイナスの視点)に行ってしまい、それを治すという形で考えてしまいがちです。

    私の目線はつねに「できていない≠できている」です。たとえ言葉が上手に発せられなくても、意思を伝えることができる、椅子に10分座れなくても5分座っていられる、人と接することが苦手でもここに来ることができる、勉強ができなくてもゲームはできる、etc…できることはじつはたくさんあります。そのできること、興味があることをどうその子に合わせて今ではなく、将来の生活に繋(つな)げていけるようにサポートしてあげられるかを考えることが大切なのではないでしょうか。

    塾でも支援事業所でも、今現在できない問題ができるようになってもまた新しいできない問題が発生します。考えるべきことは、できることがあり、それができなくなっている要因は何かということではないでしょうか。その要因を見定めることができれば、じつはそんなに悩むことではないのかもしれません。

  • 【執筆者紹介】鈴木 領人(すずき りょうと)
    精神障害者手帳3級所持(ADHD)
    経歴:児童指導員、地方公務員、プロ家庭教師、学習塾講師、学習塾教室長
    ひと言:児童指導員として、3年程働いておりました。現在は札幌にある学習塾の教室長として働いております。定型発達者と発達障がい者との橋渡し的な役割が出来ればと思い、療育現場で身につけたことや当事者としての目線を大切に日々の指導をしています。

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