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【アメリカの発達障がい事情】自閉症サマーキャンプ篇④
若者の動機って何ですか?

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下川 政洋(しもかわ まさひろ)

下の写真がキャンパーのスケジュールです。朝の8:15から夜の8:00までびっちりと予定が埋まっています。これは、キャンパーのスケジュールですから、それを担当するインストラクターはさらに長時間拘束されます。


  • (キャンパーのスケジュール)

    一日の終わりもPM8:30にご両親に電話を入れて、お子さんの一日がどうであったか報告(この電話の場面はとても感動的ですが、別の機会に譲ります)し、それから業務日誌を書きます。します。それに、キャンパーもお泊まりをするのですが、インストラクターもお泊まりをするので、実質寝ているとき以外は業務から離れることができません。

    そして、お手当は、11週で1,500ドルです。当時(2019年6月)のレートで18万円ぐらいです。お世辞にも高給取りとは言えないわけです。そうすると、やはり、なぜこの仕事を選んだかの動機が大切になってきます。印象に残っている動機のひとつは、ある黒人の女性が言っていた「ここは人種差別がないから」というものでした。地域性があると感じました。


  • (滞在中にあった政治デモ。トランプ大統領の政策は、人種差別だと批難していました。ノースカロライナ州は、歴史的にみても人種差別の強い地域と言われています)

    あるとき、インストラクターたちの動機を一覧できる機会がありました。事務所がある建物の壁にコルクボードがあって、そこになぜサマーキャンプに参加したのかを書いたカードが貼ってありました。下の写真がそれです。たくさんありましたが、その中の一部になります。







  • (インストラクターたちの動機)

    これらを一瞥(いちべつ)して思うことは、自閉症キャンプに参加することで、自分はいい人になりたい、そんなことを多くのインストラクターが望んでいるようです。果たして、自閉症キャンプに参加することで、いい人になれるのでしょうか?人格的な成長が見込めるのでしょうか?

    ここで、別のお話をします。脳の中に分泌されるホルモンの話です。一般に人間が幸福感を感じるときは、ドーパミンやオキシトシンといったホルモンが分泌されるそうです。両者とも “Happy Chemical(幸せの化学物質)”と呼ばれるそうですが、その特徴には大きな違いがあるそうです。

    ドーパミンをひと言で言うならば、「もっと、もっと」の化学物質と言えるかもしれません。現状では満足しないで、創意工夫をしてより良くなること目指すとき分泌されるそうです。ですので、活動的でクリエイティブな行動のもとになっているのかもしれません。

    しかし、欠点のようなものも持っていて、ドライブでたとえれば、車を走らせているときは快楽を感じられるのですが、目的地に着いた途端に分泌が止まってしまうそうです。欲しいものに熱中し、獲得するためにはあらゆる犠牲を払うが、手に入れたとたんに無関心となってしまう、そんな特徴があるそうです。カウンセリングの場面でも「親密な他者関係を継続出来ない」という主訴の原因は、そのほとんどがドーパミンが過剰分泌されているのが原因であるという学者もいます。

    それでは、オキシトシンの特徴はどんなものでしょうか?“Here and Now(いま、ここ)”の化学物質と呼ぶ、今あるもの、与えられているもの、この瞬間に満足し、その細かな味わいや深さに喜びを感じる化学物質だそうです。人間関係を継続して積み上げていったり、共感や理解を深めたりすることに喜びを感じる化学物質です。ドーパミンが他者と長所でつきあい、比較と選択を繰り返すとすれば、オキシトシンは自分を正直にさらけ出しても見捨てられない安心感から得られるそうです。

    だいぶ、お話が脱線してしまいましたが、ここで、お話を自閉症キャンプに戻します。ある日私は、A君という20才前半の青年を担当しました。知的障がいもともなっており、お話しもできず動作も極めてゆっくりです。そして、つねに青色の長いストローを口にくわえており、Tシャツは食べものでベタベタ、いつも鼻水を流しています。この彼は、ことあるごとに私にハグをしてきます。もちろん、正直、汚いと感じるわけです。

    そして、彼は私より背が高いのですが、そのハグのしかたは、額と額を合わせてきて、両腕で大きく私を包み込みます。そのやりかたは、何か藁(わら)をもつかむような、恥も外聞も関係なく、何かとても正直なものを感じます。すると、どうでしょう、私の胸のあたりにたしかに何か、暖かいものが生まれてくるんです。いい気持ちです。そうすると今まで汚いと思っていたものが、スッとなくなります。不思議な感覚です。

    それから、私はこの感覚を知っていると思いました。覚えがあります。私にはふたりの子どもがいるのですが、子どもが小さいころにオムツをかえました。そのときに、どうして自分の子どものうんこは汚ないと感じないのだろうと不思議に思ったときに似ています。そんなことを思い出すと、このA君がご両親からハグされている光景が浮かんできました。彼は、ご両親から何度もハグをされて育ってきたのではないでしょうか(余談ですが、ASDの人の常同運動は、容易に過去の生活を映像として浮かび上がらせてくれます。臨床場面で使えるかもしれません。)。

    この汚いものが汚くなくなり、心の暖かさに気持ちよいと感じるのは、オキシトシンが分泌されたからではないかと思いました。そんなことを思って、この稿の主題である若者の動機を振り返ってみると、彼らは私の知らない何かを知っているという直感を持ちました。彼らの人格的に成長したいという動機は、ドーパミンとオキシトシンで解釈が可能なのかもしれません。「ドーパミンだけじゃ人生やってられないよ。オキシトシンも大事だよ」と言っているのでしょうか?

    それからしばらくの間、日常生活で何か喜びのようなものを感じると、これはドーパミンかな?オキシトシンかな?と私は考えるようになりました。

  • 【執筆者紹介】下川 政洋(しもかわ まさひろ)

    (発達支援研究所 客員研究員)

    51才です。臨床心理学の勉強は、20年の社会人経験の後に始めました。肩書きとしては公認心理師で、国際医療福祉大学で主に家族療法を学びました(研修員)。偶然ですが、今年は家族の事情で、ノースカロライナ州のチャペルヒル市に滞在することが多いです。そして、ここで、自閉症スペクトラムの援助方法であるティーチ・プログラムに出会いました。こちらで感じるのは、発達障がいの人を援助する現場の「空気」が違うということです。「これってなんなんだろう?」と不思議に感じています。言語化がとても難しいです。この辺りの感覚を、攫んで帰りたいと思っています。家族療法もティーチ・プログラムも初学者でございますが、よろしくお願いします。

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