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【アメリカの発達障がい事情】自閉症サマーキャンプ篇⑤
気まずくなることはありますか?

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下川 政洋(しもかわ まさひろ)

今回も前回に引き続き、若者の動機について書かせていただきます。前回は若者の動機のポジティブな面に焦点を当てて書かせていただきましたが、今回はマイナスの側面、ネガティブなところを取り上げたいと思います。ポジティブな面とネガティブな面を両方書いたほうが、自閉症キャンプのリアリティが伝わると思うからです。

  • その前に、この自閉症キャンプで働いている若者たちの典型的なタイプと、実際に一緒に業務をしてみて私が感じた彼らの業務への参加動機について書かせていただきます。どちらも、私が勝手に感じた感想のようなものだとご理解ください。

    まずは、親族にASD(自閉症スペクトラム障がい)の人がいる人です。全体の4分の1くらいでしょうか、オリエンテーションの日にスタッフが質問をして、そのくらいの人が手を挙げていました。彼らを見ていると、とにかくASDの人と接するのがうまいのに気がつきます。業務の様子を見ているとパッと動けて「分かってるな〜」と感心させられます。こういう人は、いかに自分がASDの人に慣れ親しんでいるかにプライドのようなものを持っている気がします。このあたりが、自閉症キャンプに参加した動機と関係していそうです。

    これは余談になりますが、以前にTEACCHの学会に参加したときも同じでした。普通、学会というと、学者とか大学院生だとかが多いと思うのですが、親族にASDの人がいる参加者がとても多いのです。この開かれているところ、専門家とご家族が同じ土俵に乗っているところが、TEACCHの強みかもしれません。発言権が専門家のみに独占されていません。

    次に、ユニークさに価値を置く人です。自身もユニークな人生を意識的に選んでいるというような自己主張を感じます。型にはまったステレオタイプ的なことが嫌いで、アドボカシー(弱者の権利を代弁して主張すること)に熱心であるとも感じます。こういう人は、自分の持っている哲学のようなものと、自閉症キャンプに参加した動機が関係していそうです。

    それから、将来のキャリアを心理や福祉の分野に考えている人です。このタイプの人は、意外と数が少ないように思いました。勉強をしてきたせいか、心理や福祉の専門用語を口にすることがあるのですが、それがほかのインストラクターに通じないところがあって、ちょっと肩身が狭そうでした。私もこの部類に入るかもしれませんが、ある意味ここでの経験を自分のキャリアと結びつけたいところがあります。ですので、TEACCHは素晴らしいはずだ、自閉症キャンプは素晴らしいはずだという、肯定的なところに関心があります。自分の将来に対する希望と、自閉症キャンプに参加した動機が関係していそうです。

    加えて、意外と多いと感じたのは、とにかく人助けがしたい人。宗教的な理由を説明してくれる人もいました。このタイプの人は、活動内容が別に自閉症キャンプである必要はないようです。しかし、あたりがソフトで親切で、一緒に仕事をしていてやりやすさを感じます。とくに、苦しい雰囲気になると、この性格がみんなに重宝されていました。

    ところで、自閉症キャンプも第5週目を過ぎたあたりから、疲れがたまって来ます。ちょうど、予定の半分くらいが経過したころです。以前の稿でも書きましたが、疲れとフラストレーションが溜まってくると、自分が自閉症キャンプに参加した動機が精神的支柱になってきます。それを心の中でリマインダーのように何度も繰り返します。ですが、それでも苦しくなると、自分の考えのようなものが口から出始めます。自分の動機を言語化して、その価値を承認してもらいたくなります。動機もグラグラと揺らついてきますから、仲間に認めてもらって強化したくなるのかもしれません。しかし、ここが危ないところです。自分の動機がすんなり相手に認められないと、逆に傷ついてしまいます。これが、結構厄介です。傷ついてしまうと、その反動として、自分を守りたくなりますから、「私の動機はあなたより素晴らしい」といったインストラクター同士の軋轢(あつれき)が生まれます。気まずくなります。私はこれを、「援助動機のカースト争い」と名付けています。


  • (夏の野外活動は暑いので疲れやすいです。撮影は、顔を写さないことで許されました)
  • あるいはこういうことを聞くと、唐突ですが、第二次大戦前のお話を思い出します。アメリカの兵隊は、チューイングガムを噛んでダンスを踊っている、だから、日本の兵隊に勝てるはずがないというお話です。仕事にのぞむ精神と、仕事の効果は、あまり関係がないというお話です。

    どうも、偉そうなことを書いていますね。こんなことを書いていると、自分だけが超然としていて、自分には関わりがないようなことを書いているようです。

  • そんなことはけっしてなくて、現場の雰囲気が気まずくなってくると、もちろん私もその影響をたっぷり受けるわけです。

    しかし、あえて言うと、できるだけこの「カースト争い」を通り過ぎるようにしていたように思います。それは、私が何かを達観しているわけではけっしてなく、ある体験をしているからのように思います。ヘコんだ経験です。ですので、知的に判断しているというよりは、体が勝手に反射してしまうようなものです。そのお話をしようと思います。私がまだ大学院生だったころ、ある外部団体がやっている事例研究会に出席したときのお話です。ですが、残念ながらここで稿が尽きてしまいました。この続きは、次号に書かせていただきます。

  • 【執筆者紹介】下川 政洋(しもかわ まさひろ)

    (発達支援研究所 客員研究員)

    51才です。臨床心理学の勉強は、20年の社会人経験の後に始めました。肩書きとしては公認心理師で、国際医療福祉大学で主に家族療法を学びました(研修員)。偶然ですが、今年は家族の事情で、ノースカロライナ州のチャペルヒル市に滞在することが多いです。そして、ここで、自閉症スペクトラムの援助方法であるティーチ・プログラムに出会いました。こちらで感じるのは、発達障がいの人を援助する現場の「空気」が違うということです。「これってなんなんだろう?」と不思議に感じています。言語化がとても難しいです。この辺りの感覚を、攫んで帰りたいと思っています。家族療法もティーチ・プログラムも初学者でございますが、よろしくお願いします。

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