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【お気楽と迷惑の間】⑦私が振り返る当事者と周りの人たち
【社会人時代前編】

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大内 雅登(おおうち まさと)

大学を出て、学習塾へ就職をしました。教員になることを夢見て教育学部へ進んだはずなのですが、教育実習中に担当教員から「そんな難しいことは塾に任せておけばいい」と言われて教師への憧れがすっかりなくなってしまったのです。私としては、そんなに難しい話をしたつもりはありません。国語の実習中に、中3のある生徒が「短文」という字を「単文」と書いたので、「単文」「複文」「重文」という国文法に少し触れただけです。たしかに、授業に必要な知識かと言われれば、首を横に振るしかないんですけどもね。

  • ともあれ、高校時代に先生の一言に逆らって理系から文系に転じたように、大学時代でも先生の一言で人生を決めてしまいました。

    ちなみに、教育実習の様子はどうだったかを、社会人時代のお話をする前に少しだけご紹介しますね。

    大学の付属中学校にて3年生の国語を受け持たせていただきました。天体に関する説明文で、1日目はほぼ予定どおりに進めることができたように思います。ほかの学生からも評判が良かった記憶があります。2日目は生徒が私語をしていたので少し注意をしました。大学生時分の私の少し、は中学生にとってはとんでもない注意だったかもしれません。

    話していた女子生徒に「何を話してるん?」と声をかけます。「すみません」と謝る女子生徒に「いやいや、『謝れ』なんて言ってない。何を話してるん?」「何でもないです」「何でもないことないやろ。どうしても今話さないかんことやろ。聞いてやるから言えよ」「すみません」「謝らんでええ。聞いてやるから言え」とこれが続くんです。よく先生も止めなかったものです。こちらが「そんなに大切なことじゃないなら最初から話すな」という話をしたころには、その女子生徒は涙でぐちゃぐちゃな顔になっていました。

    そして3日目、私は座席表を隠されます。何しろこちらは顔とか名前を覚えるのが苦手ときています。座席表なしには指名もできません。ただ、生徒たちの誤算だったのは、そんなことさえこちらには問題ではないということです。「じゃあ、次のところを・・・お前読んで」という風に名前を使わずに進んでいきます。「じゃ、次、後ろ」という感じです。

    その日の放課後のクラス担任とのミーティングで、私は座席表がなかったことを話しました。それを聞いた担任は、私に謝り、ほかにクラスのことで気になることはないかと聞きました。別に言うつもりもなかったことですが、私から見た子どもたちの課題のようなものを並べさせていただきました。10分ほど話したときには、担任があの女子生徒のようにぐちゃぐちゃの泣き顔になっていました。かわいい生徒たちがひどく罵られたように思ったのでしょう。同席していた実習生もドン引きでしたが、私も子どものことを悪く言われたただけで涙する先生にひどく失望しました。

    ここらで解説を入れておきますと、私は授業は教える側と教わる側が作っていくものだと思っています。だから、こちらが一生懸命に授業をしているのに雑談をしている子には注意が必要だと思ったのです。その結果逆恨みだろうとまっとうな恨みだろうと生徒が報復に出るのはアリだと思っています。別に教える側を好きでなくてもかまいません。極端な話、教師に相当反抗的な態度を取っていても評価基準を満たしている生徒は高く評価されるべきだと考えています。評価基準にないこと、たとえば座席表を隠すことなどは気にもなりません。ただ、担任はそれが気になったようで、ほかにも謝らなければならないことはないだろうかと心配になったのでしょう。私としては評価外のことを聞いてきたので、個人的な好みの話を展開するべきだと考え、訴えたんです。

    生徒の話を共有したかったのだろうと思い伝えてみたら涙を流す。これは、授業という仕組みを共有したかったはずの女子生徒の雑談と同じく、和を乱す行為に見えたんです。世の多くの方の重んじる和との違いが伝わるとうれしいです。私は、同じ目的に進んでいくことを和と考えています。だから、この女子生徒も先生も和を乱す不届きものです。泣こうが何をしようが心が痛むことはありません。

    この和の定義について合意が得られているのかどうかを問題にする人もいるかもしれませんね。意地悪な私としては、みんなが傷つかないようになんていう和も合意をとってもらったことがないので、お互いさまですよね、という感じです。それぞれのコミュニティでみんなが読み取っていけばいいものと考えています。事実、このとき以降、その担任の前で生徒のことを悪くいうことはいっさいありませんでした。向こうもわざわざ授業以外のことを聞くことはありませんでした。こうして和が形成されていくものだと実習生の私は思っていました。

    さて、失望した私は実習のルールにしたがうのも馬鹿々々しくなってきました。昼食は生徒と一緒に教室でとることになっていましたが、めんどくさくなって自分が食べ終わったら教室を出て行きました。

    あるときには、そうめんを30束茹でていって、プラスチック製の雨どいを使って、ほかの実習生たちと控え室で流しそうめんをしました。「そんな実習生は聞いたことがない」と学年主任の先生に言われました。

    それでも、授業はまあまあの出来なので、あるときにはほかの教科の実習生も集めて全員の前で授業をすることとなりました。特別にもう1時間あげるよ、と言われたのです。こっちはもう、「そんな難しいことは塾に任せろ」と言われた後でして、そうした発言は私の仲間意識という和から外れています。聞いてやる義理もありません。結局30人の実習生を前に、私は50分間教材ビデオを流して終わらせてしまいました。

    ここまで書いて、私は悪人以外の何ものでもないことに気づいてきました。私の名誉のために(笑)触れておきますと、けっして学校に反抗しているわけではないんです。自習中のある日、台風の接近のせいで警報が発令され、学校が休みになりました。私は、暴風雨の中、実習先の学校へ行き、プランターを片付けたり、サッカーゴールを倒したりとお手伝いをしています。私は私の中の教師像を大切にしたかったのです。

    さすがに、実習生を集めてビデオ鑑賞はひどかったと反省した私は、その日の帰りに床屋へ行って丸坊主に刈ってもらいました。翌日、その頭を見た校長が私に駆け寄り理由をたずねましたので「いや、これまでの自分の振る舞いは生徒さんにとっても、先生方にとっても幼く不適切なものでした」と答えておきました。校長先生は私の答えをいたく気に入り、朝礼の話で取り上げました。私は実習最終日に代表としてあいさつをすることとなりました。

    マイクの調子が悪くて、私の前に話す先生の声は体育館の後ろにまで届くようなものではありませんでした。私はマイクを使わずに「これぐらい出したら、後ろにも聞こえるよな?このままあいさつするで~」と最後の最後まで先生を苦しめるのでした。

    実習が終わったある日、ひとりの実習生がほかの実習生をひとつの講義室に招集しました。なんの話か分からないままに講義室に入り、あまり関心がないことを示すためにいちばん後ろの席につきました。その実習生の話はこうです。かわいい実習先の生徒が体育祭を行うのだが、それを見に行っていいか実習先に聞いたら、そんなのは学校が決めることではないと答えられた。大学で決めてくれ、と。そこで実習生が署名をして大学に訴えかけよう。

    私にしてみればどうでもいい話です。体育祭なんかに行くつもりもありませんでした。同じように思った別の学生が、召集をかけた学生に反論します。「自分が行きたいからって、人を巻き込むなよ」と。言われた学生は「お前と違って生徒がかわいいんよ」と返して、「なんで初対面の人にお前呼ばわりされなきゃいけないんだ」というコントのような脱線になります。

    呼び出した学生は、口げんかを避けたいこともあって私に話を振ります。「大内さんも、行きたいですよね?」私は優秀な実習生として彼の目に映っていたようです。ちゃんと「さん付け」です。生徒思いの仲間に見えたのでしょう。ただ、相手が悪かったようです。

    「大学の付属中学が、決定権がないから大学に言えと言ってるんでしょう?持って行きどころが違うってあしらわれたわけで。で、今度は大学に訴えるって、どこの誰に訴えるんですか?あ、どこでもいいです。僕は署名とかしないんで。先生ごっこは実習中だけで、今は一学生なんで」

    そう言って席を立ちました。みんなもゾロゾロと講義室を出て行きました。私に話を振らなかったら良かったように思います。私は実習生の仲良しの和に興味はないのですから。

    社会人の話をしようとして、そうそう実習のことに触れないと教師の夢を追わなくなった理由が伝わらないな、と考えました。気がつくと相当紙幅を割いたようです。

    次回、本当に社会人の話をしてこのシリーズに区切りをつけることとしますね。

  • (個人ベーシック閲覧期間:2021年1月22日まで)

  • 【執筆者紹介】大内 雅登(おおうち まさと)
    香川県高松市の児童発達支援事業所で働く支援員です。自閉スペクトラム症の当事者でもあります。
    時には支援員のスタンスで、時には当事者のスタンスで皆様にメッセージをお届けしてまいります。趣味は剣道。大きな声が目印です。
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