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はつけんラボ(研究所)

所長ブログ

  • 所長ブログでは、発達障がいをできるだけ日常の体験に近いところからあまり専門用語を使わないで改めて考え直す、というスタンスで、いろんな角度から考えてみたいと思います。「障がいという条件を抱えて周囲の人々と共に生きる」とはどういうことか、その視点から見て「支援」とは何なのかをじっくり考えてみたいと思います。

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2024.03.11

発達心理学会で感じた変化

先週は発達心理学会があり、久しぶりにフルに参加してきました。

日本の心理学関係では一番大きな学会の一つですが、今年の大会委員長は研究所の客員研究員の高橋登さん、特別講演はやはり客員研究員の麻生武さんと、研究所とも縁の深い学会になりました。

主に自閉症関係のシンポや発表などを見て議論したり、私自身、栗林南校で行われた「第3回逆SST体験」の課題と回答を例に取り上げつつ、「【異文化】としての【定型】と【自閉】をつなぎなおす支援の模索」というタイトルでシンポで話をしたりしましたが(ご参考までに当日のパワポ資料を添付します)、全体に以前とはかなり違った新しい流れが強くなっていることを実感しました。少しご紹介しておきます。

① 「医学モデル」から「社会モデル」への転換
障がいを「健常から外れた状態」として定義する従来の医学的な診断基準は、その結果として「いかに行動を矯正して定型(健常)に近づけるか」という支援の発想につながりやすく、また障がいに関わって生まれる困難の原因やその解決の責任を「障がい当事者」に一方的に求めることになりやすく、社会的にも様々な問題を生んできました。
ダイバーシティーとインクルージョンが強調され、「合理的配慮」が法的に義務付けられ、また「当事者研究」が広がってきているのも、そういう一面的な障がい理解を超えて、「障がいをみんなで解決していくべき問題(社会にそれに対処する責任がある)」という視点に転換してきていることを示しています。サポート教室やアクセスジョブなどが公費の支援で運営できるようになったのも、そのような社会的な大きな流れの一つとして見ることができます。
そういう新しい流れの中で、すでに「医学モデル」の一面的な見方の限界ははっきりしてきており、学会で障がい者支援に取り組む研究者もすでに「社会モデル」を前提にした議論を行うことが想像以上に普通になってきて少し驚くほどでした。

② 定型とは異なる自閉者の発想や発達についての関心の深まり
自閉的な子の言語発達などが、定型的なそれとは少し異なる展開をしていることについての注目が少しずつ広がりつつありますが、たとえば「やりとり」の発達についての事例分析研究を見ても、定型とは異なる順での展開が見えてくること、以前は常識のように語られていた「自閉症児は心の理論が欠けている(弱い)」といった理解に対し、「違う心の理解の仕方」を持っているのだということを示唆する実験的研究も展開し始めていました。

③ 逆SSTなどの研究所の活動への関心の広まり
あらたな自閉理解を展開し始めている研究者とシンポの後でいくつか議論をしましたが、その方たちも逆SSTや大内さん・渡辺さん・私がいろんな研究者と作った「自閉症を語りなおす」(新曜社)を見たり読んだり、研究所の動画やブログなどを見てくれたりしていて、共感されていました。そしてここにこれから取り組んでいくべき大事な問題があるという認識で一致しました。

そんなふうに、研究所が訴えてきた「当事者視点を踏まえた対話的支援」をどう模索・展開していくかが、この領域で、早晩大きな課題になっていくだろうという現実的な感触を得ました。なお、「当事者視点を踏まえた」というのは、もっと素朴に言えば「当事者がどんな思いでそういうふるまいをしているのか」という「当事者の思い」をしっかり理解したうえで、葛藤状態を調整していく必要性をいうものです。それと反対の態度は「障がいだから意味のないおかしな行動をしているのだ」と理解して、その行動をコントロールしようとするもので、残念ながらいまだにそのスタンスを引きずったままの支援機関が少なくないように感じています。

なぜそうなってしまうかというと、人はどうしても自分の視点だけで相手を理解してしまうことになりがちで、しかも「自分(たち)が困っていること」に焦点があたり、「当事者が何を感じ、何に困っているのか」が見えにくくなってしまうためです。私から見て素晴らしい支援をされている方たちは、そこで自分の理解の仕方を超えて「相手の視点」に立ってその思いをつかみ、一緒に成長していかれるように感じますが、状況は変わりつつあるとはいえ、今後の課題ですね。研究所はすでに何人かの研究者とこの新しい視点からの様々な形の共同研究を始めていて、今の障がいへの理解、支援の姿勢を大きくヴァージョンアップするために、これからも積極的に模索をしていくつもりですし、その可能性をさらに感じさせられた学会でもありました。

202403発達心シンポ山本資料1

202403発達心シンポ山本資料2

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