2024.10.12
自閉的生き方と「ことば」1
このブログで大事にしていることは,発達障がいをその人が生きている場の中で,「当事者視点」から理解する道を探ることです。
「当事者視点」からの理解というとむつかしく感じるかもしれませんが,「その人が抱えている身体的な特徴や,物の理解の特徴」を持ちながら,素朴に言えばその場でどんな思いを抱き,どんなことを感じ,考えながら生きようとしているのかに迫ろうということです。
なんでそんなことにこだわるかというと,人は自分に与えられた身体的・精神的な条件をベースにしか生きられず,そのような条件が違う人の間では,自ずとその人の生き方や価値観などにも違いが生まれるからです。
どんな違いが生まれるのかについては,たとえば「自閉症を語りなおす」に大内雅登さんがご自身の体験してこられたエピソードをいろいろ書かれていますし,逆SSTサンプル動画では,自閉当事者と定型発達者のやりとりでそれがリアルに感じられると思います。ぜひご覧ください。びっくりするくらい,見方や考え方,ふるまい方の違いが生まれます。
その違いは普通は自閉をはじめとする発達障がい児・者が「○○ができないから」として理解されます。そうすると「○○をできるようにしよう」というのが「支援だ」という考え方にもなりやすくなります。もちろんこの世の中で生きていくうえである程度必要であることは当然なのですが,問題は理解がそこで止まってしまうこと,そしてそのことによって「その人がどういう思いで生きているのか」という,その人の人生にとって一番大事なことが見失われてしまいがちだということです。
でももともと持って生まれた条件が異なるわけですから,「○○をできるようにする」というのは,ある意味自分の条件に合わないことを無理やり頑張ってやることになります。そして,実際にそういう「○○できるように」という視点で頑張って支援されている方は実感されると思いますが,定型にとって何の苦労もなくできることにものすごい努力をしてもなかなかうまくいかないのです。限局性学習症の説明でも「努力してもなかなか成果が上がらない」ことが言われていますが,発達障がい全般に言えることです。なにしろその人の持ち味を考えずに無理をさせている「難行苦行」なのですから。
本人がその難行苦行に生きるうえでの大事な意味を感じられているのであれば,それは問題ありません。だれだって自分が苦手とすることに挑戦して努力の末に達成できたらうれしいに決まっています。その気持ちがさらなる頑張りを生み出すこともあります。でも,そのことに意味を感じられなかったら?あるいは「言われるからしょうがなくそれに応じている」だけだったとしたら,それほどつらいことはないでしょう。
こういうつらい状態になっているとき(不登校になったり,無気力になったり,逆に著しく攻撃的になったりしてしまうケースは事例検討をしているとだいたいそうですね),その人が感じていることは,やはり「自分の思いが理解されない」というつらさや憤りだったりします。でも,支援をしていてむつかしいのは,その人の思いを理解することのむつかしさです。
理解できないから,自分の考えだけで支援する。そしてその人自身の思い,当事者視点は置き去りになります。大事なのは今抱えている困難を「一緒に乗り越えていこう」という気持ちなのだと思えるのですが,そのためにはお互いに理解し合おうとする関係が欠かせません。にもかかわらずそこがむつかしいわけです。
そのむつかしさはどこから来るのか。コミュニケーションにもっともむつかしさを生み出しやすい自閉の問題について,その一つのポイントは「当事者視点を踏まえた関係調整としての支援」に書きました。特にそのズレが深刻な犯罪をまで生んでしまうという事例のことについては,「何を大事にしなければならないか」「正しいとはどういうことか」ということについての考え方のズレに注目しました。そのズレから考えると「子どもが嘘をつく」と周りから見えることの,少なくとも一部は理解ができるようになります。
ではなにがそのズレを生んでいるのか,ということについて,「他者と共有することばの世界」の性質のズレに注目して考えたことを次回書いてみたいと思います。こういう視点からの自閉の理解はたぶん支援に関する理論でもほとんどされていないと想像するのですが,多様性を踏まえた共生を目指す支援にとって,欠かすことのできない視点の一つになるように感じています。
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- 「笑顔が出てくること」がなぜ支援で大事なのか?
- ディスコミュニケーション論と逆SSTで変わる自閉理解
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- 「社会モデル」から「対話モデル」へ
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