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はつけんラボ(研究所)

所長ブログ

  • 所長ブログでは、発達障がいをできるだけ日常の体験に近いところからあまり専門用語を使わないで改めて考え直す、というスタンスで、いろんな角度から考えてみたいと思います。「障がいという条件を抱えて周囲の人々と共に生きる」とはどういうことか、その視点から見て「支援」とは何なのかをじっくり考えてみたいと思います。

    ブログ総目次(リンク)はこちらからご覧いただけます。

2024.10.23

当事者視点からの理解の波:質的心理学会

10月19日と20日は成城大学で質的心理学会が開かれました。

障がい関係の発表やシンポもたくさん見てきたのですが,障がいを巡るさまざまな困難について理解するときに,健常者や定型発達者の視点でその意味を理解するのではなく,家族等も含めてその問題を抱えている当事者にとってそれがどんな意味を持っているのか,ということを理解していこうとする研究がとても多かった,というより,私がお話をした方たちはだいたいそういう視点から考えようと模索をされているところでした。

若い研究者の方の説明を聞きながら,「それってつまり当事者視点の問題ですよね」と私がお話しすると,とたんに目が輝いて(と見えました(笑)),「そうです!」と嬉しそうに言われたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は共同研究者のみなさんと,以下の発表を行ってきました。

19日ポスター発表
共生社会に向けた就学前教育における多文化共在実践の探究

横山草介(東京都市大学)
周念麗 (華東師範大学)
山本登志哉(発達支援研究所)
こちらに科研サイトの簡単な報告記事もあります

20日シンポジウム
ASD・NT間の共生的な規範的行為形成を目指す支援
-当事者視点の対話的理解を足場として-

企画司会: 山本登志哉(発達支援研究所)
話題提供: 髙木美歩(立命館大学先端総合学術研究科)
話題提供: 大内雅登(発達支援研究所)
指定討論: 渡辺忠温(発達支援研究所)

ひとつは異文化間の対話的相互理解を目指す,大学間の交流授業を作る実践的研究で,もうひとつは自閉スペクトラム症の方と定型発達者の対話的相互理解を考える研究で,一見するとずいぶん違う話題に思われるかもしれません。

けれども「お互いに理解がむつかしい異質さを持ったもの同士の相互理解の工夫」という意味でこの二つは共通しています。理論的には共にディスコミュニケーション論を足場にした研究です。

そしてどちらも大事にしているのは,「外側からの理解」ではなくて,「その人が何を思ってそんな風にふるまっているのか」という,「その人の意味の世界」に対話的に迫っていくという当事者視点重視の実践的な研究です。

ポスター発表は,日中の幼稚園・保育園の砂場遊びのビデオを東京と上海の幼児教育に関わる勉強をしている学生さんに見てもらい,その違いとその背景にある文化的な意味を「もし自分が保育者だったらどうそれを受け止めるか」という実践的な立場も想定して考えてもらうという授業を分析したものです。

午前中に多くの方にポスターの内容を説明して面白がっていただいたのですが,そのあと,私の長い発表歴の中でも生まれて初めての面白いことも体験しました。発表時間を終えて別のシンポジウムに参加して,夕方戻ってみたら,もう発表は終わりの時間でみんなポスターをはがし始めているころ,私たちのポスターの前に人だかりがあったんです。

なんだろうと思って近寄っていくと,一人の方が熱心にポスターについて説明をされていて,ほかの方たちはそれを真剣に聞いていらしたんですね。で,その方は私たちの研究に参加されている方ではなくて,私が午前中に説明をさせていただいて,すごくおもしろがってくださっていた方でした。その方はまた夕方に戻ってきて,それだけではなく,見に来られた他の方たちに私たちの代わりにその話をしたくなられたんでしょう。

シンポジウムの方は髙木さんと大内さんというお二人のASD当事者&研究者&支援者に,ご自身の支援実践を踏まえて話題提供をしていただきましたが,会場には予想の倍の方が来られて,準備していた資料が早々に足りなくなってしまいました。質的心理学研究の日本での開拓者の方たちも,この領域で中堅で先端的な研究をされている方たちも,若い方たちも来られていて,確実にそういう「当事者同士の対話から発達障がいや支援を考える」ということの重要性への関心がとても高まっていることを実感しました。

司会としての最後のあいさつに,「これからさらにこういう対話的な相互理解を踏まえた実践的な研究活動をやっていくことが大事になっていると思うので,ぜひみなさんとも協力し合いながらいけたらいいと思います」という意味のことをお話ししたんですが,何人もの方が強くうなづかれていたのも印象的でした。

研究所でも模索してきたことが,確実に多くの方たちと共有され始めていることを感じ,楽しい学会でした。

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