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はつけんラボ(研究所)

所長ブログ

  • 所長ブログでは、発達障がいをできるだけ日常の体験に近いところからあまり専門用語を使わないで改めて考え直す、というスタンスで、いろんな角度から考えてみたいと思います。「障がいという条件を抱えて周囲の人々と共に生きる」とはどういうことか、その視点から見て「支援」とは何なのかをじっくり考えてみたいと思います。

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2024.12.25

母子分離と依存 ②

母子分離が「課題」として見えてくるときは,子どもが親に何らかの意味で依存していて,本来ならもっと自立していいはずのところ,その「依存」が抜けないために,お母さんがへとへとになってしまっている時が多いだろうということを前回書きました。

ただ,その問題を考えるときに「依存」それ自体は人間が助け合って生きていくうえで絶対に欠かせないもので,それ自体が悪いのではないのだということ,問題は「依存」が一方的なものになってしまい,子どもが親を「支配」してしまうような状況になっているという「悪い依存」になってしまっているからでしょう,ということを書きました。

そういう状態でも,お母さん(お父さんでもいいですが)は最初は子どもの為に我慢して頑張られることが多いです。でもいつまでも一方的に「支配」されて「子どもに尽くす」だけの関係になってしまうと,やがてその頑張りが限界に来てしまうことになります。いつまで自分はこの子のために「すべてをささげる」ような状態を続けなければならないのだろう,と先が見えない思いの中で,せめて少しでも自分自身を取り戻せる時間を作りたいと,子どもから離れる工夫をされるようにもなります。

母子分離が「課題」として支援者に意識されるようになるのは,多くの場合はそんな状況だろうと思います。その状態がさらにひどくなれば,親が子どもを否定的にだけ見たり,攻撃したりといった悲しい事態になってしまう可能性だって否定はできません。子どもにその攻撃的な気持ちが向けられない場合は,自分に攻撃的な気持ちを向けて,やがてうつ状態に陥ることだってあります。

親がそういう状態になれば,当然子どもとの関係は緊張した厳しいものになりますから,子どもの気持ちもさらに不安定になって,ますます親にしがみつくようになり,離れられなくなります。悪循環ですね。

 

さて,そうだとすると,「甘えてる」程度の感じである意味ほほえましく見える範囲ならいいですが,「母子分離」が課題に思える状況はそのレベルを超えてしまっているわけで,それはその状態が厳しければ厳しいほど,上のように悪循環になってしまっている状況だと考えられるでしょう。ですから,それこそどちらかがどちらかを暴力的に攻撃して,身体に危険が及ぶような状況になってしまう場合には何らかの形で一時的に物理的に無理やり「引き離す」ことがやむを得なくなることもありますが,そこまで深刻になるケースは少ないので,無理やり引き離すというやり方は問題の解決にならないことが多いはずです。

ただし,子どもの成長が進んで,ある意味惰性で依存していると考えられるときは,子ども自身が自覚的に離れていくためのきっかけの一つとして,ちょっとずつ距離をとるようにしてみることは有効なことがあると思います。ただしそれはあくまでそこまで子どもの力が備わってきている場合にだいたい限られるでしょう。支援者はその子どもの成長の度合いを見逃さないことが重要になります。でもそうでない場合に無理やり引き離そうとしたらどうなるでしょうか。

ここで大事なことは,子どもが依存すること,親に「しがみつく」ように感じられることには理由があるのだということです。その理由を子どもの立場に立って考えてみましょう。簡単なことですね。「不安」だからです。何らかの原因で「安心できない」からしがみつくわけです。

この不安な時に親にしがみつくというのは,別に特別なことではなく,どんな子どもにも普通にあることで,たとえば人見知りが出始めた時,知らない人を見て,抱っこしているお母さんにしがみついたり,胸に顔をうずめたりというのは多くの方が経験することでしょう。子どもは知らない世界に出会って不安になったとき,まずは親にしがみついて気持ちを安定させ,また頑張って知らない世界にちょっとずつ挑戦していくことで成長していくわけです。その過程で「親からもらった安心」が,やがて自分自身の気持ちの中に定着していき,親がそこに居なくても不安に対処できるようになっていきます。このようなしがみつきは何の問題もありません。

でも「母子分離」が課題と感じられるようなケースでは,そのレベルを超えてしまっていると感じられるわけですね。親にしがみついて少しでも安心しようとしてもその安心は十分ではなく,それがなかなか自分の恒常的な安定につながらない状態になってしまっているわけです。そういう状態で引き離そうとしたら結果は明らかでしょう。もっと不安になってますますしがみつくことになります。

 

そう考えてみると,親にしがみつく子の「母子分離」が課題と見えたとしても,その問題の本体は「自立せずに親への依存がひどくなる」ことなのではなく,「自立できない不安」にあるのだと,子ども自身の思いの方に視点を変えて(つまり当事者視点から)考えてみる必要が出てきます。ですから本当の課題は「母子分離」なのではなく,「どうやってその不安状態を軽減し,安心できる状態を作っていけるのか」ということですね。そこがうまくいけば,前回書いたようにもともと人間は「自分の力で自由に生きたい」欲望を持っているのが普通だと思えますから,自然と自分から離れていくことが多いだろうと予想できます。

さて,「不安」こそが問題の中心だとすると,ではなぜ子どもが不安になるのか,ということを考えることが欠かせないことになります。次回はその問題について考えてみましょう。

 

 

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