2020.03.17
障がい者が自然にとけこむ職場
正規・非正規合わせて200人くらいの人が働いている運送会社に、知的遅れを伴う発達障がい者など12人が障がい者雇用で働いている。そんなある職場を見学させていただくことができました。
会社に言われて林さんという方が8年前にまず一人目を受け入れるところから始めたそうです。
林さん、それまで全然障がい者についての経験もなく、知識もなかったところから兎に角一日中(といっても一般の社員よりは短時間)その人に付きっ切りで面倒を見るという形から始まって、でも自分の仕事は別にいつも通りあったようで、その仕事は担当した青年が帰ってから行うことになり、それはそれは大変だったとの事でした。
でも、少しずつ協力してくれる人たちが周囲に出てきた。最初は障がい者枠の人をなかなか受け入れられない人、仕事ができないと怒る人たちも何人もいる中で、「じつは自分の家族も障がい者なんだ」と言ってそれとなくサポートしてくれたり、そんな人が職場のいろんなところにぽつぽつ出てくる。
そんな中で、時間はかかってもみんなそれぞれの特徴を生かしてちゃんと責任ある仕事の担い手に育って行っています。
そうやって障がい者雇用で入ってくる人も一人増え、二人増え、いろんな部署に入っていく中で、やがてぽつぽつと点の様に生まれた協力者が線でつながっていくようにもなった。
最初林さんは「障がい者の支援のために」、定期的に研究会(検討会?)にその人たちに集まってもらって「困った事はないか」と相談に乗ろうとされたそうです。ところがやってみると、むしろ「ここはこういう風にした方がいい」といった職場の改善提案の方が八割を占めるくらいだったとの事でした。
実際、お昼前の荷物の発送先ごとの分配作業を終えて休憩するとき、一人の青年がコンベアーの下やはざまに荷物が落ちてしまっていないかなど点検作業をやっていたのですが、彼も障がい者枠の人で、そしてその仕事は自分で考えてやるようになり、それ以降責任をもってやっているようでした。
林さんは「こんな会は別に障がい者を集めてやる必要ないじゃないか」と思ったそうです。そしてそれ以降、現場でそれぞれの部署でみんなで一緒に問題点を考えるような、そんな仕組みに広がっていったようでした。
お話を聞いていて、そして職場を見学していて、「なんかすごい!」と感じた私の頭になんとなくうかんできたことばは「自然」というものでした。
なにか外から専門家がやってきて、「合理的配慮」を教えて、それに従って職場を障がい者の為に作る、というのとは違うんです。ほんとに自然にみんなの中に入り込んで一緒に仕事をしている。
やがて見学後何日かして、「ああ、昔の村とか、こんな感じでいろんな人がそれぞれにできる力を出し合って、お互いに補い合いながら仕事をして暮らしていたんだろうな」と思うようになりました。
今日、林さんとお電話でまた少しお話しできたので、その私の印象をお伝えしたところ、やっぱりそうでした。林さん自身、そういうもんじゃないかと思ってこられたそうです。別に障がい者だからどうこうということはない。普通にお互いに一緒に仕事をする。
「自分がこれだけやっているのに、こいつはこれだけしかやらないのはおかしい」といった、形式的な「平等」の感覚で文句を言う人もいたのだけれど、そういうもんじゃないんだよね、というわけです。
人の体の中に、結構深いところにもともと眠っているそういう「共に生きる力」を林さんたちが無理せずに引き出して、そしてつなげていっている。だからとても自然に感じるのだと思います。
仕事はもちろんきついこともあるわけですが、「やめたいと思うことはないですか」と聞かれて、障がい枠雇用の青年がちょっと考えてからこんな風に答えてくれました。「やめたいという人が居たら僕が止めます」
林さんにはインタビューもさせていただいているのでいずれこちらで紹介したいと思っています。ここには書いていない、とても大事と思えることもいろいろお伺いしています。
支援ってなんだろう?と、研究所でもう一度原点から考えてみたいと思っていることを、林さんたちがもうごく自然に実現してきているんだなと、そんなことを感じました。本当に学ぶことの多い見学でした。
- 支援者こそが障がい者との対話に学ぶ
- 「笑顔が出てくること」がなぜ支援で大事なのか?
- ディスコミュニケーション論と逆SSTで変わる自閉理解
- 冤罪と当事者視点とディスコミュニケーション
- 当事者視点からの理解の波:質的心理学会
- 自閉的生き方と「ことば」2
- 自閉的生き方と「ことば」1
- 自分を「客観的に見られない」理由
- 「なんでこんなことで切れるの?」
- 当事者視点を踏まえた関係調整としての支援
- 「定型文化」と「自閉文化」
- 傷つける悲しみ
- 自閉と定型の「傷つけあい」
- 「社会モデル」から「対話モデル」へ
- 障がいと物語: 意味の世界を重ね合う試み
- 誰もが当事者:わたしごととしての障がい
- 規範意識のズレとこだわり
- 「コミュ力低い」で解雇は無効という判決
- 「カサンドラ現象」論
- 「嘘をつく」理由:それ本当に「嘘」なの?
ある日、商工会であった知人の会社経営者が、障がい者を積極的に受け入れていることを知り、話を聞いた時のことを思い出しました。彼が言うには、自分は障がい者の知識はない。しかし従業員さんたちの工夫と努力で仕事が進んでいる。だからそのこと(障がい者雇用)を聞かれても困るんだよねと笑っていました。従業員の方たちとはあったことがありませんが、もしかしたらこのような光景が見られたのかなと思いながら読んでいました。続編?のインタビューも楽しみにしています。
あ、それはすごい!
機会があれば一度お話を伺いたいです。