2019.09.10
R君の積み木(3)一つから二つへ、そしてその組み合わせへ
R君の積み木のその後の展開です。(「R君の積み木(1)はこちら)
前回はR君の意味のないこだわり行動(奇声をあげながらただ積み木を並べているだけで、遊びに発展がなく、大人がそこにかかわろうとしても拒絶されてしまい、一人でひたすらそれを続けているだけ)とも見える積み木並べは、実はR君にとっては「列車の見立て」を楽しんでいる可能性がある、ということ、
それから、それまではそばで大人が積み木を積み上げて見せても、崩すだけだったのが、この時は自分から少し離れたところで積んでみるという形で、「大人の活動を取り込む」兆しが見え始めた、ということに注目しました。
そんな風にR君の行動を「意味のないこだわり」と見るのではなく、R君なりに意味がある行動と周りの大人が理解することで、変化が生まれるんですね。つまり、R君の中でひとりで芽生え始めた見立ての世界を周囲の大人が共有することで、それがより安定し、さらに発展する可能性が出てきますし、そのような流れの中で、今度はやがて大人の見立てが子どもに受け入れられる可能性が出てくるわけです。
発達心理学ではこういう展開を「スキャフォルディング Scaffolding」という言葉でも表します。スキャフォルドというのは、たとえば工事現場で見られる「足場」をさしたりするのですが、つまり、大人の働きかけ方が子どもの次の発達の足場になる、といった感じでしょう。あるいは大人が準備した意味づけを子どもが取り込んで次の発達を行うという感じ。
定型の子どもの場合はこれがとても活発に行われることで、子どもは自分の自発的な遊びの中に大人からのアイディアをどんどん取り込んでいくことになります。それに対して自閉的なお子さんの場合は、「自分の中で見たての世界を作る」という傾向がとても強くて、そこに変に大人が介入してきてそれを崩されたくないのですね。
ですから、自主的な活動の力と、それに基づくその子なりのコミュニケーションの力を伸ばすためには、そういう子どもへのかかわり方の基本は、その子が作ろうとしている世界を、こちらが理解して、それを支えるようなかかわりを心がけることになります。ですから、いきなり子どもの中に入っていくより、少し距離を置いてじっと子どもがやろうとしていることを観察し、その意味を想像することが重要になります。
さてその後の展開です。
8月2日にお母さんが「DVDで見た車掌さんの指呼点呼の真似かも」とR君の見立てを想像された、ということが一つ大きな展開と感じられます。それはお母さんの方から歩み寄る形で、お子さんとの意味の共有の世界が広がり始めたことを意味するからです。発達というのは決して子どもの中だけに起こる現象ではありません。子どもと、その子にかかわる周囲の人たちで一緒に作り上げていくものです。
もうひとつはそれまで単に一直線に並べた積み木を数本作るだけだったり、積み木の塔を作る時も少し離れたところに作っていたのが、ここでは直線の積み木のすぐそばに別の積み木の塊があることで、6日にはさらに並びが複雑になり、その中心部分の近くに積み木が散らばっています。
発達にとって一般的な傾向は、「一つ(一種類)のこと」から「複数(種類)のこと」を行うようになる、という展開があって、そのあとに今度は「複数のことを組み合わせる」ということを行うようになる、という展開がいろんなところで見られることです。
この例でいうと、「横に並べた積み木」が「複数の横に並べた積み木」に展開し、さらにそこに「別の積み木の塊」という新しい要素が加わり始めている、とも見えます。そうだとすれば、今後の展開としては、その「別の積み木の塊」が何か新しい見立てに結び付き(たとえば駅のビルなど)、それが組み合わさっていくといったことが生じるかどうかが見どころになります。
そして、そういうR君自身の展開の中に、大人からの働きかけが組み込まれ、そこからR君だけでは作れなかった新しい展開が生まれ始めるようになる、そのプロセスがどう表れるかがとても興味深い問題と思えます。これは「大人とR君の意味の共有」の形成という重要な問題なのですが、その共有過程が定型同士とは少し異なった形で進むことが予想され、そのパターンを理解することが、自閉系の人とのコミュニケーションの作り方を模索するうえでとても重要なのだと私は考えています。
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