2024.05.25
誰もが当事者:わたしごととしての障がい
障がいに関して「当事者」というときは、大体障がい者自身のことを指すのが普通です。
このときの「当事者」という意味は、それ以前の障がい者への「ケア」が、ケアする側からの視点で行われ、ケアされる側は往々にしてその他者から与えられた「ケア」の枠に従わなければならず、障がい者にとっては自分が置き去りにされたままに「扱われている」ように感じることがあり、それに対して障がい者自身が「私が当事者なんだ」ということを訴えるようになったからという経緯があります。
今では福祉の現場でも、「ケア」は「当事者」の意思を大事にすることが基本になってきていますし、4月から法的にも義務となった合理的配慮も、当事者自身の視点からの必要を大事にしなければ成り立たない話です。
でもここではもう一歩話を進めて考えてみたいと思います。別に障がい者に限らず、誰もが障がいという問題の当事者なんだという話です。
私は全国の発達障がい児支援事業所や就労移行支援事業所を回って、研修や講演等も行っていますが、時々保護者の方を対象に懇談会のような場を設けられて、そこで保護者の悩みをお聞きしたり、お互いの話を交流するファシリテーションをしたり、出来るときには簡単なアドバイスをする、というような役割をすることがあります。
私も昔から発達相談の場などでいろんな保護者の方の悩みとかを伺う機会があったので、もちろんお一人お一人その具体的なことは違うとはいえ、そこでどんなところで皆さんが悩むことが多いか、その悩みをどうな風に乗り越えていかれるか、ということについて、ある程度は共通する部分も見えてきます。
それで講演でもそうですし、保護者支援に関する研修でもそうですが、その事を大事にお話しをします。また保護者懇談会(ファミカフェとかママカフェとかいろんな名前がついてます)でも、最近はそういう保護者の方の悩み方などについてある程度最初に時間をとってお話しするようになりました。
そうすると、参加者の皆さんが何度も頷いたりしながら本当に真剣に話を聞いてくださり、そのあとお一人ずつお話しをしていただくと、その私からの話がとても響いたということを言われて、思い余って涙しながらご自分の思いを話されたりすることが少なくないんです。
自分が感じていたことを言葉にしてもらった、ということをいわれることもあります。
発達障がい児の子育てで、いろんな葛藤を抱えながら、でもその気持ちを共有してくれる人もなかなかなくて、孤立した思いで過ごされている方は少なくないとその度に思うんですね。
そして、そういう話を一人の参加者がされると、その他の方たちもとても共感されてお話しが続くということも普通です。
そして改めて思うのは、そういう保護者の方にとっては障がいという問題は決して「ひとごと」ではなく、本当に自分自身にとって大事な自分自身の問題だということです。言い換えると保護者の方もまさに障がいの問題の当事者に他ならないことになります。
私がお話しすることもそれまでいろんな保護者の方から教えていただいたその方の「当事者としての思い」なのですから、その話はまさに「当事者視点からの問題の理解」ということになります。それが保護者の方に強く響き、共感されるんですね。
就労支援の現場でも、どんな問題が起こり、就労支援相談をされている方たちがどんな取り組みをされているかを教えていただくことがしばしばあるんですが、そこで私から見て素晴らしい支援をされている方のお話しを聞くと、障がい者と雇用者の間の葛藤がうまく調整されていく時のとても大きなポイントは、雇用者の側のかたが、その問題を「自分事」として感じられるようになるかどうかだということがわかってきます。
これもやはり障がいという問題について、雇用者の方が当事者の一人であることの証明ですし、さらにその事を実感できたときに、障がいをめぐる葛藤への関わり方が大きく変わることを示しています。
そういう意味でお互いの当事者性を見つめ、共有するような関係を育てていくことが、その問題で生み出されるさまざまな葛藤や困難に、孤立せずに向き合えること、そしてそこに「障がい当事者」も同じように参加されているという、まさに多様性を前提とした共生関係が生み出されるのだということを感じます。
誰もが当事者。それをどんな風に受け止め、共有していくか。それが「当事者視点を大事にした共生のための支援」の最も基礎となる課題なんだろうと思います。
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