はつけんラボ(研究所)

所長ブログ

  • 所長ブログでは、発達障がいをできるだけ日常の体験に近いところからあまり専門用語を使わないで改めて考え直す、というスタンスで、いろんな角度から考えてみたいと思います。「障がいという条件を抱えて周囲の人々と共に生きる」とはどういうことか、その視点から見て「支援」とは何なのかをじっくり考えてみたいと思います。

2019.11.11

発達支援と就労後支援

 療育支援と「非認知力」で、産業医の武神さんが考える、ストレスに耐えて会社でその人なりに活躍していけるタイプの人が、どのような子ども時代を送ってきていると考えられるかを紹介しました。

 限られた私の経験からも、発達障がいの方でも、社会の中でそれなりに活躍されている方たちと、そこで厳しい困難に遭遇し、場合によって耐えられなくなってしまう方との違いにも、そこが関係している部分が大きそうな気がしています。

 だからこそ、子ども時代にその子が十分に受け入れられ、個性をしっかり伸ばせるような環境を提供することが、療育支援の最も重要な役割であると思いますし、そこを抜きに学校の成績にだけ焦点を当てて考えるような支援は本末転倒で、根っこを育てずに葉を繁らせようとするようなものだと思っています。厳しい世の中で生き抜けるたくましい力をどう育てるかが一番の問題なのですから。

 家庭ももちろんそのような環境を提供するための大事な場なのですが、慣れない子育てを、しかも孤立して行わなければならない状態の保護者には大変困難な課題であることも確かだと思います。どうしても家庭外の場との繋がりが大事になります。療育支援の場はその一つです。

 ただ、現実にはそういう理想的な環境が得られにくい場合も多いわけですし、そのために武神さんが指摘するような耐性がなかなか育たずに社会に出て、著しい困難に遭遇する発達障がい者はいくらでもいます。むしろ今はそれが普通といってもいい位かもしれません。

 
 さて、就労後の支援の問題です。
 
 色々な困難をなんとか乗り越えて就労した発達障がい者も、就労後にその厳しい環境に耐えられなくなってしまう例がたくさんあります。発達障がい者を支えながらそこを乗り越えるにはどうしたらいいか、それが就労後の支援の一番の課題でしょう。

 もちろん武神さんのいうストレスに耐える力をつけることができるのならそれは大きな力になります。でもそれは不可能とは言えないと思いますが、子どものころにそれを育てることに比べれば、比べ物にならないくらいに大変な課題であることはたぶん間違いないと思います。

 もしその部分が比較的簡単に解決できるのなら、多くのケースに出会ってきた武神さんがわざわざ子ども時代の経験の大切さをあんな形で強調するはずもありません。それがむつかしいからこそそこを主張しているわけです。

 そうすると、発達障がい児の支援のキーポイントと、就労後の支援のキーポイントでは大きな違いが出てきて当たり前になります。簡単に言うと、発達障がい児の発達支援は、困難にもめげずに頑張れる「心の基礎体力」を育てることが最大のポイントです。それは将来に向けて子どもの力を「育てる」段階です。その力を伸ばす伸びしろがまだたくさんあります。

 それに対して就労後の支援では、すでにその段階を終えて、その人のそれまでの育ちと持って生まれた個性によって、その「基礎体力」はある程度落ち着いてきているので、子どものころに比べればその伸びしろはどうしても小さくならざるを得ません。

 繰り返しになりますが、もちろん伸びる部分は伸ばせばいいことは当然です。実際大人になってからでもその後の経験で「耐性」が強まる、ということはしばしばあることですし、「若いうちの苦労は買ってでもしろ」という言葉もあるように、特に若いうちはその可能性がまだ大きい。私自身の経験からもそれは言えます。

 けれども同時に同じような厳しさを体験しても、そこを乗り越える人と乗り越えにくい人がいる、ということも経験上あるように思います。その差は何かというと、やはり「基礎体力」にあると思えるわけです。発達障がいの子どもはその「基礎体力」を育てるうえで、定型発達者に比べてたくさんの不利な条件を抱えているわけです。

 伸びしろには限界があるのだとすれば、それを伸ばすこと以上に、その人の「基礎体力」を見ながら、その「体力」で可能な働き方を模索することが重要だということになります。つまり「働き方」の調節がこの段階の最大のポイントになると考えられるわけです。この調節がうまくいけば、それを土台にさらに伸びしろに期待することも可能になるように思います。
 
 身体障がいの方の場合は、体の制約でできる範囲と無理な範囲がわかりやすいですし、知的障がいの方の場合も比較的そこは周囲に理解されやすいので、その人にあった働き方の調節の仕方がまだ見つけやすいと言えるのですが、知的な遅れも身体障がいもない発達障がい者の場合はそもそも「障がい」が見えにくいので、調節がむつかしい。

 その調節の仕方を見つけていくのが、これからの研究の大きな課題だとも言えます。今後「障がい者雇用支援センター」との共催で、「障がいとしごと研究会」を立ち上げることになっていて(※)、当事者・支援者・企業関係者・行政関係者・研究者などに集まっていただいてこの問題を検討していきたいと思っています。
  
 
※ その前段の企画として11月27日に「障がい者雇用推進フォーラム」が開かれ、私も講演を依頼されています。よろしければご参加ください。

 

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