はつけんラボ(研究所)

所長ブログ

  • 所長ブログでは、発達障がいをできるだけ日常の体験に近いところからあまり専門用語を使わないで改めて考え直す、というスタンスで、いろんな角度から考えてみたいと思います。「障がいという条件を抱えて周囲の人々と共に生きる」とはどういうことか、その視点から見て「支援」とは何なのかをじっくり考えてみたいと思います。

2021.03.15

VRで童話の世界に入り込む

これからはVRやMR、AR(まとめてXR)といったヴァーチャル世界とリアルな世界の新しいタイプの融合(※)がどんどん進んでいくことになります。それによって今の子どもたちが大人になって社会で活躍していく10年後、20年後には、仕事も余暇も含めて、かなり大きな生活上の変化が起こっているでしょう。インターネットが私たちの生活にもたらした変化以上の変化がこれから起こっていくことになります。

というわけで、障がい者もこれまでとは全く異なる社会参加の仕方が可能になっていきます。たとえば重度身障者でも、アバターというヴァーチャルな身体を使ってかなり自由にVR空間の中で行動し、仕事をすることができるようになりますし、学習障がいの、特に書字障がいや読字障がいなどITで全然問題にならなくなりますし、感覚過敏もこの世界ではいくらでも感覚刺激を調整可能なので、問題にならなくなります。定型的な対人関係が苦手な発達障がい者でも、VR世界では自分にとって無理のないコミュニケーションのやり方を獲得していく可能性がかなり高まってきています。

というわけで、私もまずはその世界を自分で体験しなくては、ということで、VR世界普及の起爆剤の一つとも言われたOculus Quest2というHMD(ヘッドマウントディスプレイ:いわゆるゴーグル)を手に入れて、遅ればせながらその世界を少しずつ体験してみています。

最初はすぐに目が疲れてしまって、いわゆるVR酔いに近い状態になって、これは使い物にならないのでは、とも思いましたが、少しずつ短時間で動きの少ないコンテンツで馴らしながらいくつかの世界を体験していくうちに、だんだんと慣れてきてよく言われる「没入感」も強まってきました。それがヴァーチャルな作られた世界であることは頭の片隅で意識しているのですが、それはそれとして、その世界をリアルに感じるようになります。言ってみれば「もうひとつのリアルな世界への参入」という感じが強まってきているように思います。

そうやって少しずついろいろ体験するうちに(あ、そうなんです。「見るうちに」と書こうとして、いや違う、「体験するうち」なんだと思いました)、Quill Theaterというのがあることに気づきました。見てすぐにはまりました。HPの説明にはこんなことが書かれています。

「Quill Theater(クイル シアター)」では手描きのVRアニメーション、漫画やイラストを没入型体験できます。ファンタジー、コメディー、アクション、アドベンチャーやSFなど、世界中の才能溢れるアーティストが描いた様々なジャンルのストーリーを思う存分楽しめます。
3D空間内で視点を変えたり、2D画像の中に入り込んだような体験ができます。
「Oculus TV」では「Quill」を楽しめるだけではなく、最高のVR動画も見ることができます。

VRというと、かなりリアルに世界を再現したものをイメージされるかと思います。いかに「現実」に近づけることができるか、が大事なポイントの一つだからです。ところがこのQuill Theaterは全く違う発想になっています。ほんとに手描きの漫画の世界に自分が入り込む感覚です。

ここにもひとつ関連のyoutube動画を貼っておきますが、ここに描かれた世界の「中」に入って物語を体験できます。

こういうちょっとシリアスな長編ものではなく、ほんとにある日常の一場面だけを切り取って立体的に見せる作品もたくさんあって、むしろその方が私には魅力的に感じられるものもあります。言ってみれば一枚の「絵画」の世界の中に入り込むような、そんな印象です。制作場面も一部含めた紹介動画は以下にあります。

ほんとに「童話の世界に入り込む」感じになっていきます。私も「さしえスタジオ」という便利なソフトを使えば、簡単に以下のような「おとぎ話の世界」をお遊びで描くことはできますが、そこにほんのちょっと動きが加わり、そして自分の頭の動きに伴って描かれたものが立体的に変化するのですから、ぜんぜんリアルさがことなりますね。

中でもGoro FujitaさんというFacebookのこのプロジェクトの専属アーチストの方の作品が私にはとても印象的で、ほんの一場面の中に、人生のいろいろな場面でのちょっとした一断面を感じたりできます。

もともとVRはイメージとしてはゲーム用と思う方が多いと思います。ただ、現在の展開はそこをすでに超えて、アバターを使った遠隔会議、世界の有名企業も参加する展示会、商品販売、職業技術教育など、仕事などの実務に使われるとても実用的な方向性がどんどん強まりつつあり、私はそこに「新しいイメージ」を使った「もうひとつのリアル世界」の誕生を感じ取りました。そしてさらにこのQuill Theaterでは昔からあるもうひとつの「イメージ世界」=「童話」の世界がこのXR空間に成立してきたことを感じるのです。

「人はパンのみに生きるにあらず」という有名な言葉がありますが、人間が生きていくにはいろんな意味で「物語」を必要としています。この世の中はどういう世界なのか、自分が生きる意味は何なのか、何を求めて生きるのか、そういう「生きることの意味」を感じさせ、あるいは考えさせてくれるのが「物語」の世界です。XRがそういう「意味」の領域にも入り込んできている、ということをこのQuill Theaterが感じさせてくれました。

定型社会の中で否定的に見られやすく、生きることの意味に苦しむ人も少なくない発達障がい者も、こういう新しい空間で、また違った角度から自分にしっくりくる意味の世界を見つけたり、あるいは創造したりするようになるのではないか、そんなことを思います。

 

※ 私たちは「ことば」を持つようになれば、ことばがもともと「ことば(意味するもの)⇒対象(意味されるもの)」という形で対象を「ヴァーチャルに表す」ものなので、私たち人間は常にヴァーチャルとリアルの関係の中で生きています。そしえtこのことばの仕組みを使って、私たちは自由にイメージ世界という、ヴァーチャルな世界を作り上げることができます。童話の世界も全くヴァーチャルな世界ですが、それはことばがもともと持っている力によるものです。だから別にXRの世界が今始まったわけではなく、もともと人間はXRの世界を心理的に作り上げて生きてきたわけです。

ただしこのヴァーチャルな世界を作り出す人間の心理的な仕組みは、IT技術を使って今新しい段階に入りつつあります。それはこれまでの「自分で作る」心理的イメージの世界を、今度はあたかも物の世界がそこにあるように外側から与えられる刺激によって「他者によって」作り出されてしまうという技術です。これがこれまでの心理的ヴァーチャル世界とは異なる、ヴァーチャル世界の新しい展開で、このことがこれから私たちがリアルに生きている世界を劇的に変化させていくことになります。

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