2023.04.07
自閉症を理解するための論文
質的心理学会の学術誌「質的心理学研究」(学会員以外の方には新曜社から市販されています)に,渡辺忠温さん,大内雅登さんと一緒に書いた論文「説明・解釈から調整・共生へ:対話的相互理解実践に向けた自閉症をめぐる現象学・当事者視点の理論的研究」が掲載されて先月末に出版されました(No.22,62-82頁)。
研究所では,「障がい」を「健常者」や「定型発達者」の視点から理解するだけでなく,障がい当事者の思いと共に理解することを大事にする実践や工夫を積み重ねてきましたが,なぜそういうことが必要なのか,当事者の思いを理解するというのはどういうことなのか,どういう意味でそれが可能なのか,ということについて,一度理論的に問題を整理しておく必要があるということで書いたものです。
理論論文なので,「現象学」とか「中動態論」とか「当事者研究」「能動=受動」「拡張された媒介構造(EMS)」など,だいぶ理屈っぽい理論や概念などについて検討していて,そういう議論に慣れていない方にはかなりとっつきにくいかなとは思っていたのですが,そういう心配を「裏切る」うれしい話を大内さんから聞かせていただきました。
というのは,大内さんがある学校の養護教諭の方から,その先生が理解と対応について悩まれている自閉的な生徒のことについて相談を受けられたのだそうです。そうすると大内さんが当事者視点に立って想像して説明されたその生徒の像がいちいち納得できるものであったようで,ものすごくおどろかれたんだそうです。そしてその先生が大内さんから上の論文を紹介されてお読みになられたそうです。
それを読まれた先生が「自分たちの関わりの独りよがりさ加減を知るばかりだった」とおっしゃり,「もっと知りたい学びたい」との感想を語られていたとのことでした。
私たちの論文はこれまでの自閉症理解で非常に不足していた視点を整理して提示したつもりでいます。その意味で,「新しい見方」から「新しいかかわり方」を模索するヒントになればと思っているのですが,少なくとも現場で悩まれているこの先生には,何かそういう新しい可能性を感じ取っていただけたのかと思い,ちょっとほっとして,よかったなと思いました。
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