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はつけんラボ(研究所)

所長ブログ

  • 所長ブログでは、発達障がいをできるだけ日常の体験に近いところからあまり専門用語を使わないで改めて考え直す、というスタンスで、いろんな角度から考えてみたいと思います。「障がいという条件を抱えて周囲の人々と共に生きる」とはどういうことか、その視点から見て「支援」とは何なのかをじっくり考えてみたいと思います。

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2023.08.05

「違い」を異なる文化の場で語り合う

異なる文化背景を持った人同士がどうやってお互いに理解に近づき,関係を調整していけるのか,科研費をとっての「対話的異文化相互理解」のための国際研究に参加していて,今は中国にいます。

今日までは古代中国の発祥の地,かつて中原と呼ばれた山西省で二つの幼稚園を参観させて戴き,また幼稚園の先生たちと交流し,あとは依頼されて保護者や幼児教育者を対象とした講演を行ってきました。

写真にあるように,大同市の幼児園(幼稚園)では,私が1993年に北京の中国人民大学幼児園の全托(寄宿制)3歳児クラスを朝から晩まで一日見せていただいたときに撮影したビデオの一部を見ていただいて,現在の幼稚園の先生がそれをどう見るかを教えていただきました。

当時の中国の幼稚園は基本的に先生主導(老師為主)だったのが,1995年前後から近代的な子ども中心(孩子為主)の教育思想が導入されはじめ,現在は都市部を中心にその考え方が広くいきわたってきています。写真でパソコンの画面を指しながら話されているのは華東師範大学(日本でいえば大阪教育大学に相当)の周念麗さんですが,もう私とは共同研究その他で長い付き合いになる彼女は日本に留学してお茶大を経て東大の修士を出ている人です。

日本の幼児教育思想で一番有名なのはお茶の水女子大学の倉橋惣三ですが,彼がコロンビア大学に留学していた年に同じく中国から留学していたのが陳鶴琴という幼児教育を中心とした発達や教育の大家で,デューイの影響のもと,二人ともそれぞれ子ども中心の思想をベースにしています。

日本で倉橋惣三の教育思想に出会い,中国で陳鶴琴の思想と出会った周さんは,中国帰国後に幼児教育に積極的に子ども中心のスタイルを作ることに奔走し,中国全土を飛び回っていて,山西省で私たちがお世話になった幼稚園も彼女の指導の下で陳鶴琴の思想を元に教育スタイルを作っています。彼女は自閉症の子への支援にも一生懸命取り組んでいますが,本当に子どもを愛し,人への気遣いが深く,また話が分かりやすくて面白く,中国の幼児教育界では大変な人気者で,ネットで講演すれば数万人が受講したり,とにかく大学で先生をしながらさらに休む間もなく全国を飛び回っています。

ということで,今回私たちが出した新しい対話的自閉症理解のための本「自閉症を語りなおす:当事者,支援者,研究者の対話」もお土産に持って行ったのですが,最近彼女が中国の障害者連合会に属する「上海障害者連合会自閉症工作委員会」の方にも私のことを話してくれたようで,興味を持たれて話を聞きたがっていらっしゃるとのことでした。

講演では私が北京と京都でとったデータを使っての博士論文の内容や,日中韓越で行った子どものお金理解に関する国際共同研究でわかったことなどを使って,子どもが文化によってどれほど違う社会的な振る舞い方,人間関係の考え方を身に着けていくのかについて説明をしました。

タイトルは「有关所有行为的日中文化比较;孩子们何时成为“中国人”?(所有行動の日中文化比較:子どもはいつ<中国人>になるのか?」というものですが,すでに1歳半ころから違いが見られ始め,同じ質の日中の違いが子どものお金をめぐる人間関係スタイルにも,大人同士の付き合い方にも一貫して見られることを説明し,そういうとても深い違いがあるにもかかわらず,お互いにそれを理解できていないこと,そのためもっとしっかりした深い相互理解が必要であることをお話ししたものです。今回の科研のテーマもまさにそのことについての日中韓での実践的な国際共同研究になります。

講演終了後に質問を受けての座談会をしましたが,子育てに悩むお母さんたちから真剣な質問が次々に行われ,全く時間が足りない状況でした。その内容には日本で保護者から受ける相談と共通する部分も多く,日本では主に障がい児の保護者からのものですが,質問をされる障がい以外のことでの悩みも,ほんとに通じるものをたくさん感じながらお話をさせていただきました。

先日の科研の会議でも話をしたのですが,この「根深い見方や考え方の違いに気づかないことでいろいろな葛藤が起こる」という問題は,文化の問題に限りません。まさに自閉と定型の間の違い,葛藤もそれと同じ質を持っているわけです。そのことを無視して,定型の考え方や行動に自閉の人を一方的に合わせさせようとすると,当然無理が来て,葛藤がひどくなりますし,また弱い立場に立たされることで二次障がいが生まれてくる。知れば知るほど,文化差からくる葛藤の生まれ方と自閉定型の葛藤のし方にはとても深い共通性が見えてきます。

ただ違いはその差が文化差では生まれた後にその人がその中で育つ周囲の環境によって作られ,それに対して自閉定型の差は持って生まれてくるものと考えられるという点です。その意味で,私の感覚では自閉定型の差の理解は文化差の理解よりさらに一段むつかしさを持っていると感じています。

今年の教育心理学会では私たちのほか「自閉症を語りなおす」の著者として参加していただいた浜田寿美男(発達心理学・法心理学)さん,やまだようこさん(生涯発達心理学・質的心理学・もの語り研究),高木光太郎さん(認知科学・法心理学),高田明さん(人類学),綾屋紗月さん(当事者研究)に加え,やはり当事者研究で活躍されている熊谷晋一郎さんにも参加していただいてシンポジウムを行いますが,対話的な自閉=定型理解の重要性の理解が少しずつ広がり,また結びつき合ってきている感じがします。

場合によってこれからは周さんなど,国際的なつながりも含めた展開も見通せるようになっていくかもしれません。

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