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はつけんラボ(研究所)

所長ブログ

  • 所長ブログでは、発達障がいをできるだけ日常の体験に近いところからあまり専門用語を使わないで改めて考え直す、というスタンスで、いろんな角度から考えてみたいと思います。「障がいという条件を抱えて周囲の人々と共に生きる」とはどういうことか、その視点から見て「支援」とは何なのかをじっくり考えてみたいと思います。

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2019.11.01

カナータイプの子とのコミュニケーション(1)

発達障がい児の支援をされているスタッフから相談をされるケースの中で、もっとも対応に難しさを感じられているもののひとつはやはりカナータイプの、知的な遅れを伴った自閉の子のものです。

発達障がいに分類される主な特性にはADHD、(S)LDとそして自閉系があるわけですが、この中で自閉系の一番の特徴は「コミュニケーションを成り立たせることのむつかしさ」ということになります。

カナータイプの場合は言葉の獲得自体がなかなかむつかしく、獲得された後も、かなり独特のことば遣いだったりして、「ことばで通じ合う」ことにかなりの困難が生じます。

知的な遅れを伴わない自閉系のアスペルガーなどの場合も、文法などの基本的な言葉のしくみは共有されるものの、言葉の意味理解などに大きなずれが生じやすく、おそらく知的な遅れの有無に関わらず、そこには「お互いの意図を読み取り調整する」仕組みのズレに共通の原因があるように思われるのですが、特にカナータイプの場合には「ことばでやり取りする」というスタイルに慣れきっている人からすると、そこがうまくいかなくなると、どうしていいか全くわからなくなる、ということが起こります。

特に言葉がそもそも獲得されていない自閉の子の場合は、どう付き合っていいのか、それまで体験したことのない事態を前に戸惑ってしまうのですね。

同じ発達障がいに属する特性を持つほかのタイプの子どもも、定型発達の子どもも言葉を持たない段階はもちろんあるわけですが、そういう子どもについてはそれほどの混乱は生まれません。なぜなら大人は言葉を交わすやりとりと、基本的には同じ姿勢でやりとりすることで、なんとなく通じ合った感じになります。

そうやって大人が言葉でのやり取りの世界に、まだ言葉を獲得していない子どもを巻き込む形で、やがて子ども自身が言葉を使ってそのやりとりを自ら作れるようになる、つまりはスキャフォールディングと発達心理学で言われるような仕組みが成り立ちやすいのですね。

そういう「ことばの前のことば」的な「会話」がカナータイプの子どもとの間にとても成り立ちにくいので、お手上げ、という感じになってしまうわけです。

定型的な感覚で働きかけても応じてくれないように見えるので、大人の側は無視されたとか拒否されたと感じてしまい、自閉の子は周囲に関心がないと思ってしまったりしやすいのですが、これまで「R君の積み木のシリーズ」とか、「自閉の子が言語的コミュニケーションを獲得する瞬間」などの記事で書いてきたように、実際には自閉的な子も周囲の大人とのかかわりをその子なりのやり方で求めていますし、そのやり方を発達させていきます。

ただ、それが他のタイプの発達障がいの子や定型発達者とはかなりスタイルが異なるので、こちらがが読み取ることがむつかしい、ということで、見過ごされてしまいやすいのですね。

けれども、経験を積んでいくと、だんだんと一見わかりにくい子どもの振る舞いの意味を読み解ける部分が出てきます。実際、「障がい観の「発達」」でもご紹介したように、私なりにR君の振る舞いを「実況中継」の形で読み解いてお母さんに伝えると、今までお母さんが気づけなかったR君の意味の世界に気づき始める、ということが起こりますし、「自閉の子が言語的コミュニケーションを獲得する瞬間」の大内さんと子どものやりとりに見られるように、その子に合った形での通じあいもまた成立し始めるわけです。

先日もある発達障がい児支援の教室で、自閉のお子さんのビデオを見ながらスタッフの皆さんに「実況中継」をしたのですが、やはりそこからいろいろなことが見えてきます。必死で試行錯誤しながらその子の対応を続けてこられていたスタッフの方も、そのことでかなりほっとされていたようでした。

そうやって、自閉の子に経験の薄い人は見えにくいコミュニケーションの可能性が見え始めることで、周囲の人とその子の関係が変わっていきます。

私の場合はその読み取りは、言葉の発達に関する私の理解と、定型の子についてバイトの「保父」などをしながら研究してきた私なりのこれまでの経験から自然と作られてきたものですが、多少なりともみなさんのお役に立つことを願って、不十分ながら少しその中身を言葉にしてみたいと思います。

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