2022.05.05
障がい者の活躍の場としての仮想空間
研究所では,研修などで,VRの場が「これからの障がい者の活躍の場」のひとつとなるだろうということを,数年前からお話しし続けてきました。
まずは以下の記事(部分引用)をご覧ください。
「近畿地方の農村に住んでいる40歳の「フォン」さん=活動名=に話を聞いた。フォンさんは3月、投資や投機というものとは関係なく、メタバースにある土地を買ってみた。もっとも小さな1区画といい、値段は約130万円だった。限られた予算で、「ようやく見つけた」という。8年前に長男が生まれたが、難病で亡くし、精神的に落ち込んで、外で働くことができなくなった。ちょうど、そのころネット空間で、ある「コミュニティー」に出会った。イラストレーターやデジタルクリエーターなど、「情熱とスキルがある人ばかりだった」とフォンさん。ただ、コミュニティーの人たちの中には、リアルの世界ではうまくいかず、自分と同じように「生きづらさ」を感じている人も少なくなかった。そんな仲間たちが、メタバースのことを詳しく教えてくれた。「そんな世界があるんや」
メタバースについての知識はゼロだったが、猛勉強した。そして、メタバース上での「イベント」を企画することにした。協力を募ると、アバターをつくる人、動画をつくって宣伝する人、音響を担当する人たちが集まり、それぞれの得意分野で力を貸してくれた。イベントは最大で1900人が集まる盛況だった。そんな体験をブログにつづった。」
フェースブックがメタと名前を変え,VR空間での「仕事」を本格的に可能にするような仕組みづくりに取り組んだことの結果,こういうことが実際に起こりはじめました。しかも上の記事で紹介されていますが,そこで作られた仮想的な土地が,今大人気で高価で取引される「バブル」まで始まっていると言います。
「2分足らずで完売、メタバースの「土地」 大企業も次々参入、これはリアルなバブル?」
………完売まで、わずか1分44秒だったという。3月15日、予告された販売開始時刻を過ぎると、広大な15個の「土地」は、またたく間に売り切れた。もっとも高額なもので7900万円相当。それでも世界から買い手が殺到し、1秒で売れた土地があったため、「こんなにすぐ売れるとは」と担当者も驚きの声をあげた。
記事にもあるように,この「土地」は技術があればいくらでも作れるので,こういうバブルは一時的な現象の可能性はありますが,人々の意識がすでにそこまで「加熱」するような状況になっていることは確かです。
また「仮想通貨」であるビットコインは果たして安定した現実の経済ツールになるかどうか疑問視されながら,今は大変な投機対象になっているだけではなく,実際に国をまたいだ決済手段としても利用されたり,さらにはビットコインを国の通貨として正式に認めるところまで出てきて話題になっています。
数年前の研修で「遠くない将来必ずそうなる」と口では言いながら,仮想世界の話だけに(笑)「頭での予想」を超えてリアリティがどこまであるのかは実感としてはわからなかったのですが,数年ですでにここまで来たことが確認できました。あと数年後にはこれがかなり身近になっている可能性が高そうです。
また,同じくメタが提供する無料ソフトを使って,VR上に自分の仕事部屋を作って,そこで複数のパソコンモニターを置いて効率よく一日中仕事をするような人も出てきています。こちらもこれからさらに進むでしょう。
メタバースで本気で仕事をする。「Oculus Quest 2」以外に必要なものとは?
私の場合はNETFLIXの動画やYoutubeの動画,アマゾンの動画等をそういう自分専用の「山荘の映画館(室)」等でしばしばみています。しばし没頭していた動画を見終わってゴーグルを外すと,「あ,ここ自分の部屋だった」と気づくような,自分が違う空間に「実際に」ワープしていたような感覚がしたりもします。
インターネットが世界を完全に変えつつあり,それは戦争の形も大きく変えてきているように(※),おそらくそれ以上のインパクトでメタバースの世界(XR世界:仮想現実+拡張現実+複合現実)は私たちの生活を劇的に変えていくことになります。そこでは「障がい」の意味もまた大きく変わっていくことになります。
※ 人々の活動空間の重要な軸がXRに移行して,「領土争奪」に意味がなくなるのなら,悲惨な戦争もなくなっていったりしないだろうか,などと夢想してみたくもなりますね。VR空間では争うべき「資源」の意味が大きく変わっていくので,戦争の原因となる「争奪」の意味もなた大きく変わっていくでしょう。この問題もこれからの世界を考える上で大事なポイントかと思います。また考えてみたいテーマの一つです。
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